最近「デジタル終活」という言葉をよく耳にするようになりました。
デジタルとはパソコンやスマートフォン内の情報データを指す言葉です。自分に万が一のことがあったときに、残された家族が困らないように、端末内のデータを整理したり取引をわかりやすく書き留めたりすることが、デジタル終活なのです。
パソコンやスマートフォンを持っている方は年々増えています。インターネット上で利用しているサービスも多岐にわたるのではないでしょうか?とくにスマートフォンは便利なアイテムです。従来の電話機能だけでなく、LINEやFacebookなどのSNS、定期購読や購入をするサブスクリプションサービス、銀行や証券取引もスマートフォンがあればできます。
スマートフォンやパソコンを使いこなしているのは若い世代だけではありません。総務省が発表した「令和3年通信利用動向調査」によると、60~69歳では79.3%、70~79歳では53.1%の方がスマートフォンを保有しているそうです。また、高齢世代のSNS利用者は年々増えています。
今までは親が亡くなったときに、親の交友関係を知るために年賀状をチェックするのが一般的でした。しかし、今後は親の交友関係を把握するために、スマートフォンでSNSをチェックしなければならないかもしれません。スマートフォンのロックを解除できなければ、親のことを何もわからないままになってしまうでしょう。
スマートフォンのロックは、指紋や顔といった生体認証で解除することも多くなっています。しかし、持ち主が亡くなったあと、生体認証は使えないためロックが解除できなくなるケースも増えているのです。
武田さん(仮名)は、先月一人暮らしのお兄様を亡くしたばかりです。お兄様が使っていたスマートフォンやパソコンのロックを解除できないことで、交友関係や財産の状況を知ることができずに苦労していると相談にいらっしゃいました。
武田さんの話をご紹介します。
急逝した兄のスマホが開けない!デジタル遺品で困った家族はどう対応したのか?
武田さんのお兄様は、就職のため県外に出てから、ずっと一人暮らしだったそうです。
「兄は50を過ぎていますが、ずっと独身でした。いい年の男ですので、親や私とも頻繁に連絡を取ることはありませんでした。それが、先日兄の会社から『2日間無断欠勤が続いている』と、実家に連絡が入ったらしいんですよ。両親も私も兄の携帯に何度もかけましたが、全然つながらなくて。母が急行を乗り継いで兄のところへ向かって、大家さんに頼んで合鍵で部屋を開けてもらったそうです。兄はベッドで眠った状態で亡くなっていました」
武田さんのお話では、お母様はかなりショックを受けられているそうです。しかし、大家さんと一緒だったので、その場では気丈に振る舞ったのでしょう。警察を呼んだりお兄様の勤務先に連絡を入れたりと、その場でできることを粛々とこなしたそうです。
「警察と勤務先に連絡を入れたあと、母は私にも連絡をしてきました。いろいろと心配だったので、私も会社を早退して兄が借りていた部屋に向かいました。事件性はなさそうだということでしたが、一応兄は警察で検視をしてもらいました。心不全で突然死だったみたいです。兄が戻ってから葬儀まではとにかくバタバタでしたね」
武田さんはため息をつきました。
「ずっと離れて暮らしていたから、兄のことがよくわからなくて困りました。葬儀の案内を誰に出したらいいのかもわからないので、職場で兄と親しくしていた方に伺ったりして。兄が倒れていた枕元にスマートフォンが残っていたんですけど、パスワードがわからなくて何度もロックされてしまって。とにかくわかる範囲で訃報を伝えて、いまは兄の部屋を退去するために片付けているところです」
武田さんによると、お兄様の部屋を片付けていても、どのような生活を送っていたのかが見えてこないそうです。
「兄の部屋からは銀行口座の通帳が1つだけ見つかりました。会社からの給与が振り込まれる口座です。でも、その口座からいくつかのネットバンキングに送金していることがわかり、いま問い合わせをしているところです。兄もこんな突然亡くなるとは考えていなかったのだろうと思うんですけど、すべてを手探りで進めている状態なので、残された家族は大変で。兄の秘密を探りたいわけではないんですけど、せめてスマートフォンの中身を確認できたらと思っているのですが…」
武田さんは再度ため息をつきました。
デジタル終活の定義とは?やっておかないと何が問題になるの?
デジタル終活とは、自分自身に万が一のことがあったときに、残された家族が困らないように、デジタル遺品になり得るものをわかりやすく整理することです。デジタル遺品とは、スマートフォンやパソコンに保存されている画像や文書のデータやSNS、インターネット上で契約しているサービスなど、さまざまなものを指します。
デジタル遺品は、スマートフォンやパソコンを開かなければあるかどうかを確認することができません。また、端末を開けたところで、何をどのように使っているのかがわからなければ、解約や相続といった死後の手続きができないでしょう。
スマートフォンは交友関係から資産運用まで、持ち主の生活や趣味嗜好がすべて詰まっているものです。このため、万が一のことが起きたときにスマートフォンを開かないと、故人のことがまるでわからないという状況が起きる可能性があります。そして、武田さんのように、残された家族はまさに手探りで故人の生活を知るしかないのです。
武田さんの場合、お兄様の勤務先はわかっているので、そこから数珠つなぎで交友関係や銀行口座などをある程度知ることができました。しかし、プライベートな付き合いや会社外の趣味や財産の状況はよくわからないままになっています。
最近多くの方が使っているサブスクリプションサービスは、契約者が亡くなっても解約しない限り月額が引き落とされ続けます。料金の引き落とし先である銀行口座やクレジットカードを先に解約してしまうと、支払いの延滞が続き、利息や違約金を請求されることもあります。
また、故人がネットバンキングやネット証券を利用していた場合には、口座にあるお金を相続財産として勘定しなければなりません。相続税の申告は、故人が亡くなった翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。このため、なるべく短期間で相続財産を把握したいところです。
デジタル遺品問題を起こさないために必要な準備とは?
デジタル遺品を残さないために、生前のうちに取り組みたいのがデジタル終活です。
今すぐにでも、次の3つのことに取り組んで準備しておきましょう。
- 生体認証を使っている場合には、ロック解除に使えるパスワードを設定する
- スマートフォンやパソコンのデータは整理して、必要に応じて削除する
- 使用しているサブスクリプションサービスを書き出し、使用頻度の低いものは解約する
まず行いたいのが、スマートフォンのロック解除に生体認証だけでなくパスワードも使えるように設定することです。ケガや病気といった理由で顔認証や指紋認証が使えなくなったときも便利なので、ロック解除できるパスワードを設定しておきましょう。
そして、スマートフォンやパソコン内に画像や動画、文書などをたくさん保存している人は、時々見直して不要なデータを削除することをおすすめします。端末内のデータのなかには、万が一の際に家族や友人に見られたくないものもあるはずです。知られたくないデータはしっかりと隠し、家族に伝えたいデータはわかりやすく保存するなど、整理をするとよいでしょう。
サブスクリプションサービスを利用している方は、定期的に契約しているサービスを確認して、ほとんど使っていないものは解約しましょう。サブスクリプションサービスは便利ですが、意外と月額だけを支払って使っていないものもあるはずです。適宜見直しをすると、無駄な出費の節約にもなるでしょう。
身内のデジタル遺品に悩んだときの対処法
武田さんのように、故人所有のスマートフォンやパソコンのロックが解除できない場合には、次の3つの方法を試してみましょう。
- 故人の手帳やメモを探して、パスワードが書かれていないか確認する
- パスワードとして、誕生日や名前の語呂合わせなどを入力してみる
- デジタル遺品専門の業者に依頼する
インターネット上のさまざまなサービスを利用していると、たくさんのパスワードを使う必要があるため、使用する本人も記憶しきれないことがあります。このため、意外と手帳などにパスワードをメモしている人もいるので、チェックしてみましょう。パソコンの場合は、本体にメモを貼っている人もいます。隈なく探してみましょう。
覚えやすいパスワードとして使っている人が多いのは、生年月日や語呂合わせです。
語呂合わせとしては、サイトウさんが「3110」、オサムさんが「036」などと名前を数字にあてている場合があります。何度もパスワードを間違えるとより強固にロックされてしまいますが、試してみる価値はあるでしょう。
最終手段としては、デジタル遺品を専門に扱う業者に依頼して、ロック解除をしてもらうことを検討しましょう。パスワードを解除するための費用は、パソコンで18,000~35,000円、スマートフォンで20,000~50,000円程度です。壊れた端末からデータを取り出したりSNSのアカウントを削除したりといった、サービスを行っている業者もあります。困っているときは問い合わせをして見積もりをしてもらうとよいでしょう。
デジタル終活の第一歩はエンディングノートの作成!
残された家族に迷惑をかけないように、デジタル終活を行うなら、エンディングノートを活用しましょう。現時点で頻繁に使っていてすぐに解約はできないサービスがあるなら、エンディングノートにサービスや会社名とログインID・パスワードを書いておくと、誰が見てもアクセスできます。
デジタル終活なのにアナログな方法ですが、紙のエンディングノートはわかりやすいので、デジタル終活の第一歩として欠かせないものです。
友人関係や財産などを自分で把握することができ、今後の人生を有意義に過ごすヒントにもなります。まだエンディングノートを書いたことがない方は、ぜひ作成してみましょう。