「人生100年時代」といわれる昨今、定年退職後に自宅の住み替えを検討する方も多くいらっしゃいます。しかし、老後快適に暮らせる家をどのように選んだらよいのかと悩む声もよく聞きます。
現役時代のマイホーム選びでは、勤務先や子どもの学校からの距離や通いやすさを重視するのが一般的です。また、子どもがいれば広い家が必要になります。部屋の数や収納もそれなりに多くなければなりません。しかし、老後に夫婦2人で暮らすなら、子どもと一緒に4~5人で暮らすような広さは必要ないでしょう。
定年退職後の住み替えは、終の棲家探しとなります。将来的に介護や医療が必要になることも考えて、住む場所を選びましょう。また、マイホームを購入する場合も、賃貸に住む場合にも、住み続けるには資金が必要です。老後の生活を全体的に考えて、余裕をもった家探しをしたいですね。
今回は60代の主婦・清美さん(仮名)から、購入を検討しているマイホームについてお話を伺いました。
ご夫婦で話し合っていますが、マンションにするか戸建てにするかで意見が割れているそうです。そこで、清美さんはご友人に相談されたときのことをお話してくれました。
戸建て派、マンション派それぞれの体験談
清美さんは定年退職を間近に控えた夫の英一さんと二人暮らし。英一さんの定年退職後に住むマイホームを探しているそうです。
「私の夫は転勤族で、全国各地や海外にも赴任しました。私も子どもを連れて、転勤に帯同しながら生活してきました。そんなことがあって、なかなかマイホームを購入することができなくて。定年退職したらもう引っ越す必要がないので、定住しようと思って終の棲家探しをしています」
清美さんによると、マイホームについて英一さんと話しても、どのような家に住みたいかという話で、いつも意見が分かれてしまうそうです。
「夫は便利な場所のマンションに住みたいと言っています。定年退職後もいろいろ出かけたいみたいで、駅から近いところがいいそうです。私はずっと古びた社宅やアパートのようなところに住んでいたので、戸建てのマイホームに憧れているんですよね。小さくてもお庭があるような家に。だから、まだ家が決められないんです」
そこで、清美さんはパッチワークサークルで一緒の友人に住まいのことを聞いてみたそうです。さと子さん(仮名)は、駅から徒歩7分の大きなマンションに住んでいます。もう一人の和枝さん(仮名)の住まいは、駅から徒歩15分ほどの戸建て住宅です。
「ほら、うちって社宅でしょ?だから、夫が定年退職したら家を買おうと思うんだけど、マンションか戸建てかで迷っていて。私は戸建てに憧れているんだけど、夫はマンションがいいっていうの。さと子さんと和枝さんは、住んでみてどう?」
清美さんが聞くと、まずは和枝さんが答えました。
「そうね、うちは夫の実家を継いだ形だから、実はマンションに憧れているところもあるの。でも、今の家のいいところは、やっぱり広いところかな?うちは孫が5人いるでしょ?夏休みとかお正月とかに集まったときに、全員寝られるスペースがあるのがいいよね。庭もあるから、お花を植えたりちょっと野菜を育てたり、結構楽しいよ。あとは、犬も飼えるしね。住宅街で落ち着いた場所だから、安心感はあるかな。マンションみたいにすぐ隣に知らない人が住んでいるということはないから」
清美さんとさと子さんはうんうんと頷きながら、和枝さんの話を聞きました。
「ガーデニングとかワンコとか憧れるわ。うちはまだ子どもが結婚もしていないから、孫はただただ羨ましいだけだけど。さと子さんはどう?マンション生活ってやっぱり便利?」
清美さんが言うと、さと子さんは答えました。
「そうねえ、私は実家が古い農家だったから、そことの比較になっちゃうんだけど。マンションはとにかく気密性が高くて室内が快適な気がするの。古い日本家屋って、隙間風で冬はめちゃくちゃ寒いじゃない?そういうのは感じないし、光熱費も安いかな。あとは、家の中に階段がないから楽だよね。洗濯干すのも掃除するのも戸建てほど大変じゃないよ。うちのマンションは共有スペースがあって、家族とか友達が安く泊まれる部屋もあるの。まあ、先着順だからお正月とかは予約取れないけど、普通のときだったら便利だよね」
さと子さんが話し終えると和枝さんは言いました。
「そう、古い戸建ては寒いの!だから、うちもリビングはリフォームして二重窓にしてもらったよ。それでも、お風呂とかトイレは寒くて、冬場はヒートショック対策に小さなヒーターを置いているのよ。たぶん新築の戸建ては機能もいいんだろうけどね」
3人は家の話でとても盛り上がったそうです。さと子さんのマンションにはコンシェルジュサービスがあり、ゴミは玄関の前に出すだけでスタッフが回収してくれるのだとか。宅配物の受け取りやタクシーの配車なども行ってくれるそうです。
「すごい、セレブなのね!」と、清美さんと和枝さんははしゃぎましたが、さと子さんは「いいことばっかりじゃないのよ」と、少し暗い表情で言いました。
「マンションはね、それなりに管理費がかかるの。それに加えて、大きな修理に備えてお金も毎月積み立てているのよ。うちのマンションはあと2年後に大規模修繕があるんだけど、それに向けて住民同士で話し合うことも多くて。それがなかなか大変」
「あとはね、ちょっと前にこの地域一帯で数時間停電になったことがあったでしょ?あのとき、エレベーターが動かなくなっちゃってね。5階まで上がるのが本当にきつかったわ。もっと上の階だったら、災害のときに大変だろうなって思っちゃった」
さと子さんが言い終えると、和枝さんも続けました。
「私もさっきうちは広いのがいいって言ったけど、広いデメリットもあるのよ。掃除は大変だし、2階は寝室にしているんだけど、もう夫婦2人だから1階を寝室にしたいねって話しているの。庭も今はいいけど、あと10年もしたら『手入れが面倒』なんて言っているかもしれないわ」
清美さんはさと子さんと和枝さんの顔を見ながら、
「マイホームってだけで、マンションでも戸建てでも羨ましいけど、いろいろ大変なこともあるのね。なんだか心配になってきたわ」
と、苦笑いしたそうです。
「2人の話を聞いて、終の棲家としてマンションと戸建てのどちらがいいのか、余計にわからなくなってしまいました。もしよかったら、60代で家を住み替えるときに考えられるメリット・デメリットを教えてもらえますか?」
清美さんがこうおっしゃるので、高齢世代ならではのマンションと戸建てのメリット・デメリットをお伝えしました。
高齢者視点で見る戸建てとマンションのメリット・デメリット
現役世代とは違う老後のマイホーム選び。清美さんのように定年退職後の終の棲家を探すときは、マンションと戸建て住宅とどちらを選ぶのがよいのでしょうか?
実際に選ぶ前に、メリットとデメリットを知っておくのがおすすめです。
マンションのメリット・デメリット
終の棲家にはマンションがおすすめという意見をよく聞きます。マンションを老後の住まいとしておすすめする理由や、反対にデメリットになりうる点をご紹介します。
まず、マンションの主なメリットは次の4点です。
- ワンフロアなので生活しやすい
- 建物の管理や修繕は管理会社に委託できる
- セキュリティ対策されていて安心
- 比較的便利な立地に住める
マンションの大きな特徴はワンフロアで完結するということです。ほとんど段差のないバリアフリー仕様になっているマンションも多く、高齢担っても生活しやすいでしょう。また、共有部分の庭や廊下、エントランスなどは管理会社が手入れをしてくれるので、戸建てのように自分で掃除や修繕をする必要がありません。
マンションにはオートロック機能が付いていることも多く、セキュリティ対策は万全です。マンションには多くの人が住んでいるため、近くにスーパーやクリニックなどがあり、暮らしやすい立地なのも魅力といえます。
一方、マンションの主なデメリットは次の3つです。
- マンション内のルールがある
- 自由に間取りを設計できない
- 駐車場までが遠い可能性がある
マンションはほかの住民もいる共同住宅です。このため、マンションごとにさまざまなルールがあります。たとえば、室内犬であればペットを飼えるマンションも増えていますが、ペットは一切飼えないというルールがあることも。楽器の演奏や洗濯機の使用などの時間が決まっていて、自由度が少ない可能性もあります。
マンションはほとんど間取りが決まっているので、設計に関しての希望を伝えることはできません。また、駐車場から玄関までが遠いのも、デメリットとして挙げられます。車で買い物に行ったあとも、重い荷物を持って自宅まで歩かなければなりません。高齢になると車までの距離を負担に感じるという声をよく耳にします。
戸建てのメリット・デメリット
マイホームといえば戸建てというイメージも強く、老後の住み替えで戸建てを選ぶ人も多くいらっしゃいます。戸建てを終の棲家にするメリット・デメリットをご紹介します。
戸建ての主なメリットは次の3点です。
- 間取りを自由に設計できる
- ペットとの暮らしや趣味などを自由に楽しめる
- 駐車場を玄関の目の前に設置できる
戸建ては、比較的自由に間取りを設計できるのがメリット。古い戸建て住宅をイメージすると、急な階段や使いにくいキッチンなどが思い浮かぶかもしれませんが、終の棲家としてはワンフロアの平屋住宅が人気です。生活動線を考えて間取りを決めれば、暮らしやすい部屋になるでしょう。
マンションのようにたくさんのルールはないので、ペットと暮らしたりガーデニングなどの趣味を楽しんだりと、老後を謳歌できます。駐車場を玄関の前に設置することができるので、荷物を運んだり移動をしたりするのが楽なのも戸建てのメリットといえます。
一方、戸建てのデメリットは次の通りです。
- 家のすべてを管理・修繕する必要がある
- 交通の便が悪い可能性がある
- 相続時に負担になる可能性がある
戸建ては家の管理をすべて自分で行わなければなりません。外構や庭の掃除や修繕を行うのは、高齢になると負担に感じる場合もあるでしょう。また、駅から離れた地域に戸建ての住宅街があることも多く、交通の便が悪い可能性があります。終の棲家として戸建てを選ぶなら、買い物や通院に困らないかどうか、確認するのをおすすめします。
日本では建物よりも土地のほうが価値が高いため、戸建てはマンションよりも相対的に価値が高くなりがちです。このため、戸建ては相続時に子どもの負担になる可能性もあります。