高齢ともなれば入退院が頻繁になる人も増えてきますが、入院すると治療費はもちろん食事代や差額ベッド代など、さまざまなお金が掛かってきます。
それらのお金は「退院時に支払うことになるんでしょ」と考えているかもしれませんが、入院時に支払わなければならないお金もあるので注意が必要です。
ですが、時にお金以上に深刻な問題となるのが、身元保証人が用意できないという問題です。
入院時、ほとんどの病院で身元保証人が求められる事をあなたはご存じですか?
実に9割を超える病院が、入院時に身元保証人を求めると言われています。それにも関わらず、この身元保証という制度を知らない人が実に多いのです。
身元保証人についてその内容を知ると、それが知人・友人に気軽に頼めるような内容ではなく、家族がいても簡単にはお願いできない問題である事がわかってきます。
今回は「親の入院時に大変だったこと」として、身元保証人探しで苦労した知人の体験談をご紹介します。
親の入院でわかった身元保証人探しの大変さ
これは筆者の20年来の友人である裕子(仮名)さんの話です。
私は結婚して子供もいますが、彼女は生涯独身を宣言している身。お互い状況は違いますが今でもプライベートの話をする間柄です。そんな彼女から先日こんな話を聞きました。
父はもう亡くなっているし子供は私しかいないから、私が長野の実家まで帰って入院の手続きをしたんだ。
突然のことだったから何も準備出来ていなかったんだけど、支払いは退院の時だろうから大丈夫だろうと思って、お金の準備は特にしてなかったのね。そしたら入院の翌日までに入院保証金を5万円持ってきてって言われて驚いちゃったよ。
でもお金よりも苦労したことがあって、手続きの時、書類に身元保証人を1人書くように言われてさ。
1人は私の名前を書くとして、もう1人が全然思いつかなかったのよ。親戚がいないことはないけど、普段連絡を取っている人なんかいないんだから。
でも1人いないと入院できないっていうから必死に探したわよ。
それで何とか山梨に住む母の姪の名前を借りたけど、もう何年も連絡を取ってない子だから、事情を説明するのに苦労したわ。
私入院なんかしたことないから、入院に身元保証人が必要だなんて全然知らなかった。
しかも1人も必要なんて言われたら、そんなの用意できない人多いんじゃないかな?
うちもたまたま用意できたようなもんだし。本当に大変なことだなと思ったよ。
裕子さんから聞くところによると、保証人は友人などに気軽に頼めるような内容でもないようで、この出来事をきっかけに、介護などの両親の将来に不安を持ったとのこと。
それと同時に、「自分が入院する際の身元保証人についても不安になってきた」と言っていたんです。
裕子は独身のいわゆるおひとりさまで、身近に関係の深い親族もいないので当然のことだと思います。
裕子だけでなく、私にとっても他人事ではありません。私の親も70代半ばで、いつ彼女と同様の立場になってもおかしくありません。
また、両親のことだけでなく私自身も、今は家族と同居ですが、子供が巣立ってしまえば夫か私のどちらかは最後はおひとりさまになるんです。
そんな話を聞いたので、入院時の保証金と「身元保証人」について気になってきました。
身元保証人とは、一体どういう制度なのでしょうか?
身元保証人が簡単に見つからない理由は負担と責任の重さ
身元保証人に求められる役割は病院によっても変わってきますが、一般的にはこの4つの役割だとされています。
何かあった時は緊急で呼び出される
入院中は、治療トラブルや容態の急変など、いつ想定外の事態に陥るかわかりません。
特に、患者の容態が悪く本人と意思疎通ができない場合は、病院は独断で治療を進めなければならず、そうなると、病院としてはさまざまなリスクを負うことになります。
そんな時、身元保証人に連絡を取って、治療方針の相談ができれば病院にとっても患者や家族にとっても安心です。
つまり、緊急連絡先としていつでも連絡を取れる状態を作り、時には駆けつけることが身元保証人には求められます。
入院・手術費用の支払い保証義務
身元保証人には、患者が入院費用や手術費用を支払えない場合、代わりに支払いをする義務が発生します。
病院が身元保証人を求める大きな理由の1つが、この費用支払いの保証です。
身元保証人として病院の書類にサインをする際、「入院費用、それに伴う諸費用は本人及び身元保証人が責任をもって支払う」などの文面があった場合は、入院費用の支払い義務を課せられます。
医療行為の説明立ち会いを求められる場合も
身元保証人は、入院や手術における説明を患者と一緒に受けるよう病院に求められることがあります。
病院は治療説明を患者だけでなく身元保証人にも聞いてもらうことで、治療への理解を深めてもらいやすくなり、安心できるからです。また、患者にとっても一緒に治療説明を聞いてくれる人がいると、不安や心配を軽減できるのがメリットです。
身元保証人は入院前の治療説明だけでなく、治療過程での説明や、病院からの治療方針相談などに乗ることもあります。
万が一の場合はご遺体を引き取らないといけない
身元保証人は、患者に万が一があった場合に身柄を引き取る役割もあります。死後の事務手続きや、家族がいない場合は、葬儀の準備などを担わなくてはなりません。
費用が発生することもあり、手続きにも時間がかかるため、覚悟の必要な役割です。
身元保証人を依頼する側もされる側も、発生する義務については事前にしっかり話し合い、理解と了承を得ておくようにしましょう。
そして実は、身元保証人を求めるのは病院だけではありません。老人ホームなどの介護施設の8割以上が、入居時に身元保証人を求めると回答しているのです。
高齢になって、入院も一切しない、介護施設にも入らない、という自信を持てる人はなかなかいないでしょう。
ほぼすべての人が、どちらかのお世話になるはずです。
ですがその時、もしあなたに身元保証人を引き受けてくれる人がいなければ、病気なのに入院できない、要介護状態なのに施設入居できない。という問題に直面する可能性があるのです。
とは言え、ここまで説明したように、身元保証人の責任と負担は重く、決して気軽に知人・友人に依頼することはできません。
家族であっても、例えば自分と同様に年齢を重ね、知力・体力が衰えたパートナーに頼むのは心許ないでしょうし、遠方に住む子供に頼むとなれば、毎度の交通費なども馬鹿にならないでしょう。
かと言って関係の薄い親戚であれば、頼む側の精神的負担も大きく、あるいは、身元保証人の役割を知れば、依頼を断られる可能性も充分に考えられます。
身元保証人を見つけることは決して簡単なことではないのです。
ですが、解決策はあります。それが、身元保証サービスを利用するという選択肢です。
身元保証人探しで困ったら代行サービスを使うという手も
入院・入居の必要があるけど、おひとりさまで家族に頼れなかったり、家族がいても遠方に住んでいたり、頼れる関係性にない、という方のために、民間の身元保証代行サービスというものが存在します。
もし身寄りがなかったり、近くに頼れる存在がいない場合は、そういった身元保証会社の利用を検討しても良いでしょう。
ただこうした身元保証会社は玉石混交で、サービスの質が著しく低かったり、法外な価格設定がなされていたり、中には実態のない会社まであるので注意が必要です。
公式サイトを見た際に、住所が開示されていない、あるいはサービス価格の記載がないといった会社の利用は避けた方がいいでしょう。また、個人経営されているような会社も、リスクの面から避けた方が無難です。
もう1つ見るべきポイントは、財産開示を要求されるかどうかです。財産開示を要求している場合、相続だけが主な業務になっていたり、利益至上主義であるケースもあるので、これも1つの判断基準になります。
身元保証人の代行サービスを検討する場合は、これらの事に注意して探してみると良いでしょう。