認知症が増え続けているって本当?認知症になると何が起きる?

体験談

認知症とは、脳の病気や障害によって、認知機能が低下する状態です。年齢を重ねると誰しも多少の物忘れを経験するものですが、認知症になると普段通りの仕事や家事ができなくなったり、会話の辻褄が合わなくなったりしていきます。日常生活に支障が出るようになると、介護が必要になる場合もあるでしょう。

厚生労働省の調査によると、2020年時点で日本における65歳以上の認知症の方は、約600万人と推計されています。2025年には約700万人が認知症になるといわれています。これは、高齢者の約5人に1人が認知症になるという計算です。(※1)

5人に1人が認知症になると考えれば、自分の両親や家族が認知症になってもおかしくありません。もちろん自分自身が認知症になる可能性もあります。

認知症になると、記憶力が低下したりさまざまな事柄を判断したりすることが難しくなります。このため、認知症の症状が客観的に証明できる状態であれば、認知症の方が行った売買や賃借などの契約は無効にできます。不利な状態で高額な商品を売りつけられるリスクから、認知症の方を守ることができるのです。一方で、認知症の方が物の売買をしたいときに、簡単にできない可能性も出てきます。

今回、お話を伺った礼子さん(仮名)のお母様も認知症だそうです。認知症になるとさまざまな契約を結べなくなることを知らずに、困っているという悩みを話してくれました。

実家じまいをしたくても親が認知症だと解体が困難に

礼子さんの話によると、礼子さんの実家で母親が住んでいた空き家をなんとかしたいけれど、認知症が理由で何も進まないとのこと。詳しく話を聞いてみました。

礼子さん
「私の実家は父が15年前に亡くなっていて、母が一人暮らしをしていたんです。でも、母は5年ほど前から認知症の症状が出始めて、今は一人で暮らせないので、グループホームに入所しています。よくしてくれる施設が見つかって、それは本当に安心なのですが…」

礼子さんは続けて言いました。

礼子さん
「実家は築60年くらいの木造住宅で。何度か補修はしているんですが、それでもかなり古くて。母はもう実家に戻ってくることはないだろうし、ここ数年大雨のときに雨漏りもするようになったから、いっそのこと解体したほうがいいんじゃないかって弟と話していたんですよ」

礼子さんの弟さんは実家から車で1時間ほど離れたところに住んでいて、実家の解体を進めようと業者に見積もりを依頼したそうです。解体が決まったら、礼子さんは実家の片付けに行くつもりでいました。

礼子さん
「実家がなくなるのは寂しいけれど、仕方がないことだと思って。弟も実家にある父の仏壇を移そうと思って、準備をしていたんです」

しかし、礼子さんと弟さんの計画は頓挫してしまったそうです。解体業者から「お母さんのサインと押印がないと家の解体はできない」と、言われたとのこと。

礼子さん
「父が亡くなったときに、実家は母に名義を変更していました。だから、母のサインや押印がないと家の解体ができないそうで。もちろん、私も弟も実家で使っている印鑑を持ち出すことはできるのですが、母が認知症なので、家を解体する契約が結べないと言われてしまって。勝手に私たちがサインするのもダメなんだそうです」

礼子さんと弟さんが実家の解体を急いでいたのには、理由がありました。

礼子さん
「実家の近所に、空き家になっていた古い家があったんですが、昨年の台風のときに半壊してしまったそうです。目の前の通りに壁や屋根が飛んでしまって、近所迷惑になっていたみたいで。それを見て、弟と『うちも解体するなら早いほうがいいね』って話していたんですよ」

弟さんは、解体業者から「お母さんに後見人がいれば、契約は結べますよ」と、言われたそうです。

礼子さん
「後見人制度って、聞いたことはあるけれど、お金持ちや家族関係が複雑な人が財産を守るためにするものというイメージが強くて。私たちみたいに、財産も大してなく、きょうだい仲もいい家族には関係がないことだと思っていました」

そこで、礼子さんは認知症の方や家族に必要な「後見人制度」について、調べたそうです。

認知症の方とその家族を守る任意後見人制度とは?

礼子さんがインターネットで調べると、同じように認知症の親名義の実家を処分できないという悩みを抱えている人がたくさんいることがわかりました。

礼子さん
「私のまわりでも、親が認知症になっている人ってたくさんいるんですよ。それなのに、後見人制度を利用しているっていう人の話って、ほとんど聞かないんですよね。困っている人がこんなにいるのに…」

そして、礼子さんは調べているうちに、実家のケースではお母様が認知症になる前に「任意後見人制度」を使うのがベストだったとわかったそうです。

任意後見人制度とは、次のような制度です。

任意後見人制度は、本人が元気なうちに自分で選んだ人を後見人として決めておくものです。また、事前に何を代理でやってほしいかということも決めておきます。

そして、万が一、本人が認知症や障害などによって判断力が低下してしまったとき、事前に選んだ後見人が、本人の代わりに事前に決めた事項について行えるようになります。

一般的には、預貯金の引き出しや管理・不動産の売買や賃借の契約・介護サービスの契約・遺産分割協議などを、判断力の低下した本人に代わって行えるように手続きする方が多いようです。

任意後見人としてよく選ばれるのは、次のような人です。

  • 子どもや親族、信頼できる人
  • 弁護士や社会福祉士などの専門職
  • 社会福祉協議会やNPO法人

頼れる親族がいる場合には、子どもやきょうだいなどに依頼する人が多い傾向ですが、子どもがいない方は社会福祉協議会などの法人が後見人になることも可能です。

礼子さん
「うちの場合は、母が元気なうちに弟を任意後見人にしてもらうように手続きしておけばよかったんですね。今さらですが、もっと早く知っておけばと思いました」

礼子さんは、落ち込んでしまったそうです。

法定後見人制度を使えば認知症になってしまった親や家族を守れる

実は、後見人制度には「任意後見人制度」と「法定後見人制度」の2つがあります。

任意後見人制度は、本人が元気なうちに自分で決めた事項について、自分が選んだ人に代理してもらえるように手続きするというものです。

一方の法定後見人制度とは、すでに判断能力が低下している方に、成年後見人をつけて保護や支援をする制度のこと。(※)任意後見人と同様に、子どもや親族が後見人になることも可能です。どちらの後見人も、財産の管理や介護・入院時の手続きなどを手伝うことはできますが、ホームヘルパーのように家事や介護などのお世話はしません。

※参照:厚生労働省「法定後見人制度とは(手続の流れ、費用)」
https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/legal_guardianship/

法定後見人制度は、家庭裁判所に申立てから後見人として選任されるまでに、3~6ヶ月の時間を要することもあります。また、申し立てるときは財産目録や診断書などの必要書類を揃えたり、申立てのあとに本人への面接が行われたりと、手続きはかなり煩雑です。このため、成年後見人制度を使う場合には、早めに最寄りの家庭裁判所に赴き、説明を聞いたほうがよいでしょう。

成年後見人制度は、認知症の本人や家族を守ることができる制度ですが、実は家族の負担になる面もあります。
成年後見人は簡単に変更できず、原則として本人が亡くなるまで後見業務が続くからです。また、財産の管理に不正がないように、細かく帳簿を付ける必要があります。一般的には1年に1度、成年後見人は家庭裁判所に後見等事務の報告を行わなければなりません。

礼子さん
「法定後見人制度って、結構大変なんですね。まずは弟と一緒に家庭裁判所に行って、説明を聞いてこようと思います」

礼子さんは、さっそく弟さんに電話して、調べた内容を伝えたそうです。

任意後見人制度を使うとおひとりさまも安心

5人に1人が認知症になる時代。いつ自分が認知症になってもおかしくありません。認知症になって、身の回りのことや難しい契約などができなくなったときに、自分の身を守るのが任意後見人制度です。

任意後見人制度のよいところは、自分が元気なうちに自分を助けてくれる人を決められること。法人も後見人に選べるので、頼りになる子どもがいない方やおひとり様でも将来に備えられます。

おひとり様の場合、自分自身が認知症になってから法定後見人制度を使うことはできないでしょう。任意後見人制度を使うことで、近くに頼れる親族がいなくても、地域包括支援センターやケアマネージャー、かかりつけ医などが連携して、介護サービスの契約もスムーズにできます。地域の専門家たちが連携して任意後見人制度の開始を決めることで、本人の判断能力が低下しても、すぐに支援をしてもらえます。

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