お墓も継承者不足。いま「墓じまい」する人が増えている理由

体験談

ここ数年、墓じまいがテレビや週刊誌などで特集されるようになりました。

「先祖代々のお墓が地元にあるものの、自分の住まいからは遠くてお墓参りになかなか行けない」また、「40代の子どもがいるけれど、子どもは一生独身を通すつもりのようで、後々お墓を継ぐ人がいなくなる」という話をよく聞きます。

従来のお墓は、お墓参りをするのも大変です。墓石まわりの草むしりや木枝の剪定、落ち葉の掃除などに半日以上かかってしまうケースもあるでしょう。墓守をする人が高齢でお墓参り自体が負担になってきたから、墓じまいに興味を持ち始めたという方も多くなっています。

鎌倉新書が実際に墓じまいを経験された方を対象に行った「 改葬・墓じまいに関する実態調査」(※1)では、墓じまいの理由として58.2%の方が「遠方にお墓があるから」と回答しています。続いて多いのは「墓守が途絶えるから」という理由で、37.5%の方が回答しました。

少子高齢化が進むことで、お墓を継承する人がおらず、悩んでいる家族が増えています。夫婦それぞれが実家のお墓を守らなければならず、お墓の管理が負担だという話もよく耳にします。

しかし、墓じまいの進め方はよくわからないし、何となく墓じまいに罪悪感を持つ方もいらっしゃるようです。各家庭や家族一人一人によってお墓に対する考え方が違うという点も、墓じまいの難しさとなっています。

今回、地元にある先祖代々のお墓の墓じまいを検討している加藤さんにお話を聞きました。加藤さんは墓じまいの話をするなかで、家族といえども考え方の違いを実感して、頭を抱えたそうです。

お墓の面倒まで見られないと子供に言われて…

現在67歳の加藤さんは、役職定年後も再雇用で仕事を続けている、文字通りの仕事人間です。

新潟県の山あいの町出身ですが、大学進学と同時に上京しました。同じ職場に勤めていた晶子さんと結婚。晶子さんの両親の援助によってマイホームを持ち、40年近く東京に住んでいます。

加藤さん
「長男だし、もともとは新潟に帰りたいと思っていたけれど、もう東京に住んでいる時間のほうが長いからね。妻は東京の人間だし、人間関係もこちらで築いているから、新潟は時々年老いた親の顔を見たり同窓会に行ったりする場所という感じかな。」

加藤さんの母親は父親が亡くなってから長年一人暮らしでしたが、5年前から高齢者施設に入っています。

加藤さん
「母親が一人暮らしのときは心配で度々帰っていたけれど、施設に入ったら安心してしまってね。コロナ禍というのもあって、ここ2年は新潟に行ってないかな。」

そんな加藤さんには娘が2人いますが、先日長女の里美さんからこんなことを言われたそうです。

里美さん
「お父さん、新潟のおばあちゃんのお墓はどうするの?お父さんもあそこのお墓に入るつもり?私も雅美(里美さんの妹)も、あんなに遠くのお墓を維持できないからね。あのお墓を継ぐ人はもういないよ。」

加藤さんは里美さんから言われて驚き、娘からお墓を維持できないと言われ少々イラっとしたそうです。

加藤さん
「はっきり言って、お墓のことなんかまともに考えたことがなかったんですよ。母が施設に入ってからも、近くに住んでいる妹が時々お墓参りをしてくれているみたいで。自分たちがしなくても何とかなってきたんでね。」

そして、妻の晶子さんにこう漏らします。

加藤さん
「お墓を継ぐ人がいないなんて言い草、ひどいよな?里美は結婚しているけど、うちの娘なんだぞ!」

しかし、妻の晶子さんからはこんな意外な言葉が。

晶子さん
私もあのお墓には入りたくありません!

晶子さんはさらに追い打ちをかけるように、加藤さんにこう話します。

晶子さん
「里美の言うことには一理ありますよ。それに自分だって、時々お墓参りに行くくらいでしょう。人のこと言えないじゃないですか。」

加藤さんは即座に反応しこのように語気を強めまます。

加藤さん
「それじゃあ、俺たちが死んだらどこのお墓に入るんだよ!」

しかし、晶子さんは動じませんでした。

晶子さん
「私、もともと新潟のお墓に入りたいとは思っていないの。イマドキは海洋散骨っていうのがあるのよ?私が死んだら、ハワイの海にでも散骨してほしいわ。」

加藤さんは晶子さんの言葉に何も言えなくなったそうです。

加藤さん
「「最初は娘の言葉にムカッとしたんだけど、妻までもが『新潟のお墓に入りたくない』みたいなことを言い出して……。挙句は、ハワイに骨を撒いてほしいというから、もうよくわからなくてね。」

最初は妻と娘から言われて、半ば仕方なくお墓のことを考え始めた加藤さん。しかし、ちょうどその時期に、ニュースの特集で無縁墓が取り上げられているのを見て、「このままではうちのお墓も無縁墓になってしまう」と、不安になったそうです。

無縁墓とは、継承者がいなくなって管理されなくなったお墓のこと。お寺や霊園に管理料が支払われずお墓参りもされないまま、荒れ果てた状態で放置されたお墓が全国各地で問題になっています。加藤さんは、先祖代々のお墓を無縁墓にすることだけは避けたいと考え始めました。

そこで、加藤さんは「墓じまい」について調べてみたそうです。

墓じまいはお墓を無くすことではなく「移す」こと

加藤さんは墓じまいと聞いて、今ある先祖代々のお墓をなくすことだと考えていました。しかし、実際に調べると、墓じまいとはお墓を移転することだと気づいたそうです。お墓を引越しするときに最初の段階で行うのが、古いお墓の墓じまいなのです。

お墓の移転先としては、次のようなところを選ぶ方が多いようです。

  • 別のお墓を建立する
  • 納骨堂に納骨する
  • 永代供養してもらう(樹木葬や合祀墓も含む)
  • 手元供養をする
  • 散骨する

加藤さんは自分や娘の管理しやすさを考えると、住み慣れた東京にお墓を買うのが1番だと感じたそうです。しかし、東京でお墓を買ったとしても、結局は後々誰かに継承してもらわなければなりません。

また、新しいお墓を購入するならば費用がかかります。納骨堂も同様です。

手元供養はほかの方法に比べて費用がかからないというメリットがありますが、ご先祖様の遺骨をすべて手元供養するのは現実的ではありません。

永代供養は人気が高いのですが、一度納骨してしまうと二度と取り出せない場合もあります。選択肢が多い分、お墓の移転先は慎重に決めなければなりません。

墓じまいの手順は想像以上に複雑

墓じまいの手順を調べていると、気が遠くなりそうだったと加藤さんは言います。大まかに墓じまいは次のような手順で進められます。

  • 家族や親族の同意を得る
  • 改葬先を検討する
  • 既存のお墓を管理するお寺や霊園の承諾を得る
  • 墓じまいの承諾を得てから、新しいお墓を準備する
  • 新しいお墓の管理者から、「墓地使用許可証」を発行してもらう
  • 新しいお墓への納骨や建立の時期を検討し、打ち合わせをする
  • 既存のお墓がある市町村役場で「改葬許可申請書」をもらい、記入する(遺骨の数と同じ枚数の申請書が必要)
  • 既存のお墓の管理者に「埋葬証明書」を発行してもらう
  • 「改葬許可申請書」「墓地使用許可証」「埋葬証明書」を市町村役場に提出し、「改葬許可証」を発行する
  • 「改葬許可証」を既存のお墓の管理者に提示し、御魂抜き(みたまぬき)を行う
  • 墓石を撤去して、既存のお墓を更地に戻す
  • 既存のお墓から取り出した遺骨を運び、新しいお墓に預ける
  • 新しいお墓に「墓地使用許可証」と「改葬許可証」を持参し、開眼法要を行う
  • 新しいお墓にすべての遺骨を納骨する
加藤さん
「うちは先祖代々のお墓なんだけど、実際にお墓に何人のご先祖様が収められているのかよくわからなくて。親父が亡くなったときに一応自分が継承者になったけれど、実際には母がほとんどやってくれていたことに気づいたよ。」

墓じまいをするためにやるべきことはたくさんあります。加藤さんのように遠方にお墓がある場合には、何度か往復する必要があり、余計に労力がかかるでしょう。

墓じまいで大切なのは家族や親族みんなの合意

墓じまいについて調べていると、とにかく最初に出てくるのが「家族や親族の同意を得ること」という言葉です。

法律的に考えると、墓じまいに家族や親族の同意は必要ありません。しかし、同意を得ないまま勝手に墓じまいをしたことで、後々トラブルに発展することは少なくないのです。

加藤さんの場合も、娘や妻に言われて墓じまいを検討し始めましたが、存命の母親や妹に相談する必要があります。言い出しにくいことだったものの、加藤さんは母親の施設が行ってくれるオンライン面会のときに、お墓のことを聞いてみました。

加藤さん
「うちの母は、『そうかい、そりゃ仕方ないもんね。さとちゃんやまさちゃんに迷惑かけたらいかんからね』と、画面越しに頷いていたよ。思ったよりもあっさり承諾を得られたけど、小さくなった母にこんな話をしなきゃいけないなんて、なんか申し訳ないような気持ちになったね。」

それから、加藤さんは妹にも連絡をしたそうです。すると、妹は意外なことを言いました。

加藤さんの妹
「私は別に構わないけど、叔母さんたちにちゃんと話したほうがいいよ。お彼岸のときは必ず叔母さんたちがお墓参りに来て、きれいなお花をお供えしてくれてるんだから。」

叔母というのは、加藤さんの父親の妹にあたる人物です。先祖代々のお墓は叔母にとっては両親やきょうだいが眠る大事な場所。

加藤さん
「自分たちの事情ばかり考えていたけれど、やっぱり先祖代々のお墓を大事に思っている人がいるんだと気づいてね。今度新潟に行ったときに、叔母さんたちにも話しておかなきゃいけないと思っているところだよ。それで墓じまいを反対されたら、どうしようかね(苦笑)」

墓じまいは簡単ではないと、加藤さんは実感したそうです。

墓じまいについて専門家に相談するのもあり

墓じまいに関しては、やるべきことがたくさんありますが、個々に事情は異なります。複雑な墓じまいの手順について、個別に相談が出来る専門家を頼るのも良いでしょう。

墓じまいは人生の中で何度も行うものではありません。このため、墓じまいについての知識がないのは当たり前です。しかし、信頼できる会社に相談しなければ、手順を間違えて後々トラブルに発展したり、悪徳業者に引っ掛かって高額な費用が発生したりすることもあります。

今後のお墓の管理ついて不安がある方は、一人で抱え込まずに専門家を頼ってみましょう。

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