終の棲家は「サ高住」で本当に大丈夫?自由を謳歌したい義両親とお金の問題

体験談

年齢を重ねると、食事の準備や掃除・洗濯などを毎日行うのが負担に感じるときが出てきます。

「住み慣れた家でずっと暮らしたい」と思っていても、一人で暮らすのが不安だったり、介護が必要になったりという可能性があるでしょう。そういったときにお世話になるかもしれないのが「高齢者施設」です。

しかし、一口に高齢者施設といってもその種類はたくさんあり、規模や自由度、受けられるサービスは施設によって大きく異なります。しかも、人気の施設は常に満室で、空くのを待たなければならない状態です。また、施設によっては入居するのに高額な費用が必要な場合もあります。

「まだまだ高齢者施設なんて、検討しなくても大丈夫」と、思われる方は多いかもしれませんが、「もしもお世話になる場合は、どんな施設を希望するか」ということは、早めに考えておくのがおすすめです。

また、「この施設がよさそう!」と、思っていても、しっかり比較検討をしなければ、将来後悔する可能性もあります。

実際に、義理の両親から高齢者施設入居について相談を受けた、紀美子さんの話をご紹介します。

きっかけは義両親からの高齢者施設入居の相談

紀美子さんの話によると、お正月に夫・実さんの実家へ挨拶に行ったとき、義両親から高齢者施設への入居を検討していると言われたそうです。

義父
「実と紀美子さん、ちょっといい?」

急に改まって義両親に呼ばれた実さんと紀美子さんは、戸惑いながら2人が座っているダイニングに座ると、テーブルには高齢者施設のパンフレットが置かれていたそうです。

義父
「もう70も超えたし、こういう施設に入るのもいいかな?って、母さんと検討していたんだよ」

と、話し出した義父。

義母
「ここからバスで20分くらい行ったところに、評判のいい施設を見つけたの。サ高住さこうじゅうってよく言われるんだけど、サービス付き高齢者向け住宅なの。ここ、見てみて?お食事もね、ちゃんとシェフが毎食出してくれるのよ」

義母が指さした先には、フレンチのコースのような豪華な食事の写真が掲載されていました。

実さん
「なに、勝手に決めて。2人でそこに引越すの?この家はどうするの?」

実さんは突然の報告に驚いて、言葉に詰まりながら聞きました。

義父
「実はマイホーム持っているし、この家を残しておいても仕方ないだろう?家を売却して、そのお金で施設に入居しようかって思っているんだよ」

義父の言葉に、義母が続けました。

義母
「この家は階段が急でしょ?最近上り下りがつらくなってきてね。元気なうちに安心して楽しく暮らせるところに引越そうかと思ったのよ。ほら、一般的な老人ホームはちょっと窮屈だけど、ここなら部屋は個室でお父さんと一緒に入れるし、バリアフリーだから暮らしやすそうだし」

紀美子さんは驚いたものの、義両親らしい選択だと感じたのだそうです。

紀美子さん
「義父は72歳、義母は70歳ですが、なんというか元々合理的な性格なんです。とくに義母からは『年を取ったらもっと便利な、駅近のマンションに住み替えたいわ』という言葉を聞いたこともあったので、こういう選択もありなのかなと思って」

しかし、そのように思ったのは紀美子さんだけだったようです。実さんは意見が違いました。

義実家から帰宅する車内で、実さんは紀美子さんにこう言いました。

実さん
「信じられないよな?ああいう大事なことを勝手に決めて。それに『サ高住」だっけ?ああいうところはかなりお金がかかるんだろう?家を売却するって言っていたけど、大丈夫なのかね?」

確かに、義両親が見せてくれたパンフレットから、かなり豪華な印象を受けたという紀美子さん。お金がどのくらいかかるのかは、とても気になりました。

紀美子さん
「ちょっと、妹の早紀子に聞いてみるね」

早紀子さんは紀美子さんの妹で、地元でケアマネージャーとして働いています。

紀美子さん
「お義父さんたちが言っていた施設のことは知らないと思うけど、『サ高住』について聞いてみよう」

高齢者施設選びのポイントは「ずっと住み続けられるかどうか」

さっそく紀美子さんは、介護のプロである早紀子さんに電話して相談してみました。すると、早紀子さんからは次のようなアドバイスをもらいました。

早紀子さん
「サービス付き高齢者向け住宅はね、確かに自由度が高いし、実さんのご両親のようにまだまだ元気な方にはぴったりな施設ね」

早紀子さんの言葉に、ほっとした紀美子さん。しかし、アドバイスには続きがありました。

早紀子さん
「でもね、基本的には介護サービスがない施設なの。だから、もし介護が必要になって要介護度が上がったときには、サービス付き高齢者住宅では対応できないのよ。私の担当している方でも、途中で退去しなきゃいけなくなった人が結構いるよ」
早紀子さん
「あと、実さんのご両親は夫婦で一緒に住みたいんでしょう?もしどちらかが介護が必要になったとき、また一緒に入居できる施設を見つけるのは大変だと思う。そういうことは考えておいたほうがいいと思うよ」

紀美子さんがメモをしながら聞いていると、早紀子さんは早口で続けます。

早紀子さん
「サ高住はやっぱり快適な分家賃も高いところが多いから、そこも確認したほうがよいかもね。入居時のお金と月々のお金が必要だよ。毎月お金がかかるから、長生きすると思ってお金を準備しなきゃいけないよね」

早紀子さんの話を聞いて、紀美子さんは頭を抱えたそうです。

紀美子さん
「義両親が見せてくれたパンフレットで、サービス付き高齢者向け住宅ってステキだなと思ったのですが、介護度が上がったり月々のお金が払えなくなったりしたら、住み続けられないなんて。夫にも話して、義両親に伝えたいと思いました」

高齢者施設には公的施設と民間施設がある

早紀子さんとの電話を終えてから、早紀子さんはさっそくサ高住以外の高齢者施設についても調べてみました。すると、高齢者施設には比較的リーズナブルな公的施設と、サービスが充実している民間施設があることに気づいたそうです。

公的施設

公的施設のなかには、長期入居が基本の施設と短期間のみ入居できる施設があります。

長期間入居できる施設は次の3つです。

特別養護老人ホーム

「特別養護老人ホーム」は地方自治体や社会福祉法人が運営する老人ホームのこと。略して「特養(とくよう)」とも呼ばれます。

介護士が常駐していて、しっかりと介護を受けられる施設です。利用費用が安いため人気が高く、多くの施設が空き待ち状態になっています。人気が高いため、要介護3以上の方が利用できる施設です。

ケアハウス

「ケアハウス」は、比較的介護度が低い高齢者がリーズナブルな価格で入居できる老人ホームです。基本的には、介護サービスを外部に委託している「一般型」と、施設内で介護サービスを受けられる「介護型」の2種類があります。

介護医療院

「介護医療院」は、身体介護や医療ケアが必要な方向けの施設です。医師と看護スタッフが常駐しているため、利用者の容態急変時にも対応できます。
一般的な老人ホームとは異なり、イベントやレクレーションなどはあまり行われません。看取りやターミナルケアも行われる施設です。

短期間のみ利用できる公的な施設は、次の2つです。

介護老人保健施設

「介護老人保健施設」は、病院を退院後すぐに自宅での生活ができない高齢者を対象に、数ヶ月程度リハビリをしながら滞在する施設です。略して「老健(ろうけん)」と呼ばれます。

原則的にリハビリをして在宅での生活に復帰することが目的なので、入所期間は3ヶ月~半年ほどです。

養護老人ホーム

「養護老人ホーム」は、さまざまな理由によって一人で生活できない高齢者を一時的に受け入れる施設です。「特別養護老人ホーム」と名前は似ていますが、養護老人ホームは、経済的・環境的に困っている方を支援するための措置入所が基本となっています。

民間施設

民間の高齢者施設は、事業者ごとにサービス内容や月額料金が大きく異なります。主な種類は以下の5つです。

介護付き有料老人ホーム

「介護付き有料老人ホーム」は、自立している方から要介護5までの高齢者が入居できる施設です。生活支援や介護サービスなど、入居者に合わせたサービスを提供できます。

介護サービスを施設内で受けられるので、外部の業者と契約する必要がなく、月額利用料がわかりやすいのがメリットです。
また、クリニックと提携していたり看取り介護ができたりする施設が多いのも特徴です。終身利用できるものと考えられるでしょう。

住宅型有料老人ホーム

「住宅型有料老人ホーム」は、基本的な生活が自立してできる高齢者が入居できる施設です。

サービス内容は、掃除洗濯、食事や買い物などの生活援助がメインで、介護が必要な場合は外部業者の介護サービスを利用します。自由度が高く、イベントやレクリエーションなどが充実しているのが特徴です。

健康型有料老人ホーム

「健康型有料老人ホーム」は、元気な高齢者が楽しく過ごせる工夫がされている老人ホームです。食事の提供などのサービスや共有スペース、レクリエーションが充実しています。

介護サービスはなく、介護が必要になったら退去しなければなりません。

サービス付き高齢者向け住宅

「サービス付き高齢者向け住宅」は、安否確認や生活相談を行ってくれるバリアフリーの賃貸住宅です。「サ高住」と略されます。入居できる高齢者の状態は施設によって異なりますが、基本的には自立して生活できる方を対象としています。

最近では、サービス付き高齢者住宅のなかにも介護サービスを提供している施設も増えています。介護サービスを提供している施設では、介護度が上がっても退去する必要はありません。

グループホーム

「グループホーム」は、認知症の方がヘルパーの支援を受けながら共同生活を送る施設です。少人数でアットホームな雰囲気のなかで、自分でできることは自分で行います。決められた役割をもつことで、認知症の進行を遅らせられるようにケアを進めているのが大きな特徴です。

高齢者施設の種類や特徴を調べていくうちに、紀美子さんはもっとわからなくなってきたと言います。

「介護度が高くないと入れない施設もあるし、反対に元気なうちしか住めない施設もあるんですね。将来どの時点でどのくらいの介護が必要になるのかって、誰もわからないじゃないですか?そんな中で高齢者施設を決めるのって、本当に難しいですね」

高齢者施設で迷ったら考えたいこと

高齢者施設によっては、要介護状態でないと入れないところもあります。しかし、紀美子さんの義両親のように、将来お世話になるならどんな施設がよいかを考えておくことは大切です。その際は、立地・費用・サービス内容などを比較検討しましょう。

たとえば、同じ「介護付き有料老人ホーム」でも、事業所によって料金やサービス内容、職員や入居者の雰囲気などは異なります。実際に、見学や入居体験などを行ってみるのもよいでしょう。

人気の高い施設は入居待ちの状態が続いている可能性もあります。希望すればすぐに入れるわけではないので、早めに動き始めるのがおすすめです。

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