葬儀は直葬にした事で親族とトラブルに…直葬を選択する際に気をつけるポイントとは

体験談

直葬の定義とは、火葬のみを行う葬送スタイルのことです。直葬ではお通夜や葬儀・告別式を行わないため、宗教的な儀式がない葬送になる傾向にあります。また、参列者はごく身近な人に限られ、ご逝去から火葬までの時間も従来の葬儀よりも短くなっています。

従来の日本の葬儀では、ご逝去の当日、もしくは翌日の夜にお通夜を、お通夜の翌日に葬儀・告別式を執り行うのが一般的です。このため、一連の葬儀には2日間かかります。しっかりとお別れの時間を取ることができ、たくさんの参列者が故人を偲ぶ場をもてるのが従来の葬儀のメリットといえるでしょう。

一方で、葬儀の準備で忙しく、多くの参列者の対応で慌ただしいため、ご遺族が故人とお別れをする余裕がないというデメリットもあります。最近では、ご遺族の金銭的・体力的な負担を軽減するために、火葬だけを行う直葬や、お通夜を執り行わない「一日葬」といった葬儀を選ぶ方が増えています。

いい葬儀が2022年3月に実施した調査によると、2020年は4.9%だった直葬・火葬式が2022年には11.49%へ増加したと発表しています。

この背景にはコロナ禍も影響していると考えられ、少人数・短時間で済む直葬を選ぶ人が増えたのではないでしょうか。

しかし、直葬はもともと身寄りのない故人を弔うときに行われた葬送スタイルです。故人と最期のお別れをしっかりしたいご遺族のなかには、直葬を侘しい葬儀だと感じる方もいるでしょう。とくに伝統を重んじる高齢の方にとっては、抵抗感が強いのかもしれません。

また、直葬を選択したことで、後から親族とトラブルになったというケースもよく耳にします。

今回は、お父様の希望で直葬にしようとしたものの、最終的に家族葬で葬儀を執り行った純也さん(仮名)に話を伺いました。純也さんの親族は葬儀を終えたあとも、お父様の葬儀のことで関係が悪化してしまったそうです。

闘病中の父の終活。最期の希望を息子は託されて…

純也さん
「父の希望を叶えたかったけれど、結局親戚に反対されてしまって。どうしたらよかったのかと、今も当時のことを振り返って苦しくなります」

話をしてくれたのは、昨年お父様をがんで亡くした純也さんでした。

純也さんの話では、純也さんのお父様は会社の健康診断がきっかけでがんが見つかったそうです。2年間の闘病の末、お亡くなりになったとのこと。

純也さん
「父はまだ62歳で、闘病しながらも仕事を続けていました。でも、病気がわかってから1年後くらいに、もう治療を続けていても治る見込みがないと言われてしまい、父は積極的な治療をやめて在宅で療養するようになりました」
純也さん
「母も自分も妹も、在宅療養に不安がないわけじゃなかったんですけど、最期にいい時間が作れましたね。時期的にはコロナ禍だったので、もし父がずっと入院していたら、面会することもほとんどできないような状況でしたから」

純也さんのお父様は訪問看護や介護を受けながら、家族の力も借りて自宅で静かに毎日を過ごしていたそうです。

純也さん
「父はいつも革製の手帳を使っていたんですけど、それにいろいろと書いていました。あるとき、父に呼ばれてベッドサイドに行くと手帳の1ページをちぎった状態で渡されました。父の走り書きのメモでした」

純也さんの話では、お父様から渡された紙にはこう書かれていたそうです。

純也さん
「葬式は火葬のみでOK 少額保険を使うように 証券は出窓の書類入れの1番上」

お父様は紙を渡したあと、笑いながら純也さんに伝えたそうです。

純也さん
「喪主は母さんだと思うんだけどさ、たぶん大変だから。純也のほうが母さんよりもしっかりしてるだろ、俺に似て」

当時を思い出したのか、純也さんの声は少し震えているように聞こえました。

純也さん
「父は営業一筋でやってきた人で、根回しみたいなのが上手だったんですよ。だから、闘病中に自分のお葬式のことをちゃんと考えたんだと思います。まだ現役世代なので、仕事の人間関係もあると思うんですけど、『お葬式は火葬だけ』とずっと言っていましたね。『俺は信心深くないから、そういうのにお金使わなくていいんだよ』と、言っていました。妹がまだ大学生だったので、お金はそこに使ってほしかったのかもしれません」

純也さんはお父様から預かったメモを大切に保管し、事前に少額保険の証券も確認したそうです。

純也さん
「父が亡くなったら50万円出る生命保険でした。お葬式用として準備していたみたいですね」

純也さんはお母様と妹さんにもメモを見せながら話をしました。

純也さん
「『いつの間にそんなことを準備していたの?』と、母は苦笑いしていました。『でも、お父さんらしいね』と、涙混じりにみんなで笑いましたよ」

父の希望は「直葬」でも親族から反対されて…

純也さんのお父様は、数ヵ月後に家族に看取られながら息を引き取りました。お父様の両親はすでに他界していたので、お父様のお姉さんと妹さんがご臨終に立ち会ったそうです。

純也さん
「私たち家族はゆっくり父が衰えていくのを見てきたから、覚悟していたんですけど、伯母たちはもう号泣していましたね。憔悴した伯母に話すのも悪いと思ったんですけど、亡くなったあとって時間がないんですよね。だから、父のお葬式の話をしたんですよ」

お父様は火葬のみの直葬を希望しているし、それを賄えるだけの生命保険もあります。純也さんは、お父様の葬儀はスムーズに打ち合わせが進むだろうと思っていたそうです。ところが、伯母様たちの猛反対にあいました。

純也さん
「伯母たちが『直葬って質素なお葬式でしょ?そんなお葬式をするなんて兄さんがかわいそう』と、口々に言ってきたんです。私と母で父の希望だと話して、例のメモも見せたんですけど、『兄さんは気弱になっていたんでしょ!』と、取り合ってもらえなくて…」

純也さんとお母様は伯母様たちを説得しましたが、話し合いに疲れてしまい、譲歩した形で葬儀を執り行ったそうです。

純也さん
「一般葬はやめましたが、親戚などを20人ほど呼んだ家族葬にしました。しかも、伯母が知り合いのお坊さんにお経をあげてもらうと言ってきかないので、お布施も結構払うことになってしまって。結局、父の保険は足りないし、お香典も集まらなかったから父の遺産から出しました」

純也さんはため息をつきながら話し終えると、そのまま黙ってしまいました。

直葬を実現するには何が必要?想定したい準備と費用とは?

純也さんはお父様の希望だった直葬を営めず後悔をしていますが、実現するためにどのような準備が必要だったのでしょうか?

多くのご家庭では、ご臨終で家族が集まったときに葬儀のことを話し始めます。

  • どの葬儀社に依頼するか
  • どういった形式の葬儀にするか
  • 葬儀会場の場所はどこがいいか
  • 葬儀の規模(参列者の人数)はどのくらいになりそうか

こういったことを話し合い、葬儀社を決定したあとに詳細の打ち合わせを進めます。

純也さんのお父様のように、生前のうちに葬儀について本人が考えていると、希望通りになることが多いでしょう。しかも、お父様は葬儀費用についてもしっかり準備されています。

直葬の場合、葬儀にかかる費用は約10~30万円です。火葬の費用、ご遺体の搬送・安置にかかる料金のみで済むため、ほかの形式の葬儀よりも安く済みます。

生前のうちに葬儀の予約をしておくという方法もありますが、純也さんのお父様は自分でできる限りの準備を進めていたといえます。

直葬を実現するために1番大事なのは親族の理解

実は直葬を実現するために最も重要なのは、親族の理解を得ることです。

直葬はお通夜や葬儀・告別式を執り行わないので、特殊な葬送スタイルともいえます。ご本人や身近な家族が納得していても、親族や故人の関係者によって反対されたり後からトラブルになったりすることも多いと聞きます。

とくに、先祖代々のお墓や菩提寺がある方が直葬をすると、納骨時にトラブルになるケースが多いでしょう。直葬では故人の供養が十分にできていないとみなされ、お墓や納骨堂への納骨を拒否されることがあるからです。

このため、直葬を実現したい場合には、親族や菩提寺の許可を得ることが大切です。

直葬を実現したいならエンディングノートに書こう

直葬を実現したいなら、エンディングノートに希望を書くことをおすすめします。

純也さんのお父様はメモで純也さんに書き残していましたが、エンディングノートに「直葬を希望する理由」も書き添えていたら、伯母様たちも理解をしたかもしれません。

エンディングノートは、財産や自分自身のこと、終末期に希望する医療や介護のこと、葬儀やお墓のことなどを書く欄があります。元気なうちに書くことで、自分の人生を振り返ることができ、今後の人生をより豊かに過ごせるようになるでしょう。

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