ちょっと転んだだけが命取りに…高齢者の転倒事故の実態とは?

体験談

高齢になると、身体機能が徐々に低下するのが普通です。筋力・バランス感覚・瞬発力などが衰えると、若い頃のように足をしっかり上げて歩いたり、ちょっとした障害物を避けたりすることが難しくなります。このため、少しの段差や荷物などで転ぶことがあります。

しかも、高齢者が転倒すると、思わぬ大きなケガにつながります。

東京消防庁が発表した「救急搬送データからみる高齢者の事故」では、令和2年中に日常生活の事故で緊急搬送された高齢者は76,707人でした。そのうちの55,183人は、転倒が原因で緊急搬送されています。

つまり、日常の事故で緊急搬送された人のうち、71.9%は転倒が原因ということです。しかも、転倒で緊急搬送された人の59.4%は、自宅や介護施設といった居住場所で転んでいます。

高齢者が転んで緊急搬送されると、4割程度は入院が必要なほどのケガを負います。頭を強く打ったり骨折したりすると、長期の入院が必要になるかもしれません。住み慣れた自宅にも危険があることを覚えておきましょう。

今回は、実家を安全な空間にするために、リフォームを検討しているという田中さん(仮名)からお話を伺いました。

古い住宅は危険がいっぱい!?高齢の母が転んで骨折した理由

田中さんは同じ市内の山間部に実家があり、そこにはご両親が二人で暮らしているそうです。

田中さん
「先日、仕事中に普段ならかけてこない父から電話があったんですよ。そしたら、母が倒れて救急車を呼んだというんです!慌てて搬送された病院に駆けつけたんですが…」

お父様の話では、この日お母様はかかりつけの病院に行く予定だったそうです。

田中さん
「母は『じゃあ、行ってきますわ』と、言って居間を出たらしいのですが、しばらくしても車のエンジン音がしなかったそうです。それを不審に思って父が玄関に行くと、母が倒れていたらしくて」

下駄箱の角に頭を打ち付けたのか、お母様は頭部から出血をしていたそうです。

田中さん
「父は母が血を流して倒れているから、驚いて救急車を呼んだと言っていました。父はかなり動揺していましたが、母の脳には異常がなくて、骨も折れていなかったのでほっとしました」

お母様は検査入院しましたが、無事に2日間で退院しました。次の休みの日に、田中さんは家族を連れて実家にお見舞いに行ったそうです。この日は、隣りの県に住んでいる妹さん一家も心配してやってきたと言います。

田中さん
「同じ市内とはいえ、実家は車で30分以上かかる山間部にあって。そこまで頻繁に行き来していたわけではなかったんです。子どもが大きくなると、土日は部活や塾の送迎があって、私も妻も忙しくしていて。親は80近いけど、とくに大きな病気もなくて、車も自分で運転できるし、安心していたんです。でも、久しぶりに妹と実家を見てみたら、高齢者の二人暮らしには向かない家だと気付きました」

田中さんに詳しく話を伺うと、次のような点が問題だと感じたそうです。

  • 玄関の三和土(たたき)から玄関ホールまでが高く、上り下りが大変
  • トイレや風呂場、居間などの境目に5cm程度の段差がある
  • トイレや風呂場に手すりがなく、立ち上がるのが難しい
  • サッシが古くなっていて、開きにくい扉がある
  • 居間や寝室にダンボール箱が無造作に置かれていて、歩きにくい
  • 階段が急で段差が高い
田中さん
「とにかく実家には罠なんじゃないかというくらい、段差が多かったんですよ。両親を見ていると摺り足で歩いているから、よくこれでつまずかないなと感心するくらいでした。あと、居間や寝室、廊下に無造作に荷物が置かれていて、実は私もそのダンボールで足の小指を打ったくらいです」

よくよく話を聞いてみると、今回お母様が倒れたのは、玄関ホールから立ったまま靴を履こうとして、バランスを崩して転んでしまったことが原因でした。いつもは下駄箱を支えにしていましたが、人形や鍵、出そうと思っていた郵便物が置いてあったので、避けて手を付こうと思ったところ転倒してしまったそうです。

田中さん
「いろいろ大事に飾ったり置いていたりするんですけど、物がいっぱいでごちゃごちゃしているんですよね。それも危ないんじゃないかと思って、『片付けたほうがいい』と言ったんですけど…」

田中さんは実家を片付けてリフォームしたほうがよいと感じて、妹さんとご両親に切り出したそうです。しかし、ご両親は渋ったらしいのです。

田中さん
「両親は『もう年だしあと何年ここに住むかわからないんだから、リフォームなんてもったいない』と言うんですよ。『慣れているから大丈夫』とも言っていました。でも、また転んで倒れるかもしれないし、子どもとしては不安です」

田中さんのご両親は「リフォームはもったいない」と言いますが、田中さんも妹さんも心配をしています。そこで、高齢者の転倒対策について、田中さんと一緒に考えてみました。

高齢者の転倒予防に何が有効?いますぐに簡単にできることとは?

田中さんのご実家のように、昔ながらの日本家屋はバリアフリーを前提に建てられていません。さまざまな箇所に段差があり、高齢者がつまずきやすい環境になっています。「リフォームをするしかない」と考えると、かなり高額で大掛かりな作業が必要というイメージですが、実は簡単に転倒を予防することも可能です。

たとえば、政府広告によると、次のような対策をすると高齢者の転倒予防ができると解説しています。

  • 家電などのコードの配線は、壁に這わせたり部屋の奥にまとめたりする
  • カーペットやマットには滑り止めを敷く
  • 床に物を置かない
  • 段差があるところには、スロープか手すりを付ける
  • 玄関では靴を着脱するためのイスを置く
  • 上がりかまちが高い場合には、踏み台を置く
  • 滑りやすいスリッパや靴下は使わない
  • 階段に滑り止めを付ける
  • 照明を明るくして、足元がよく見える状態にする

田中さんのご実家にも、無造作に置かれているダンボールがあるとおっしゃっていましたが、床や廊下に置かれた物がなくなるだけでも広々した空間ができ、歩きやすくなります。

また、踏み台やイス、スロープはホームセンターなどでも購入可能です。カーペットやマットを滑らないようにしたり、コード類をまとめたりするのも、比較的簡単にできることでしょう。

リフォームを検討する前に、高齢のご両親にとって過ごしやすい環境を作る工夫をするとよいでしょう。

田中さん
「そうですね。リフォームする前に、要らないものを片付けたりイスや踏み台を購入したりしてみようと思います。まあ、不用品の片付けもそれなりに大変そうですけど…」

田中さんは、苦笑しながら言いました。

住宅改修工事には補助金が出る場合も!地域包括支援センターで確認しよう

スロープや踏み台はホームセンターでも購入できますが、手すりはしっかりと取り付けなければならないため、やはり工事が必要になります。また、階段からの転落は高齢者にとって文字通り命取りになります。階段の段差が高かったり急だったりする場合には、そちらもリフォームをすると安心です。

リフォームというととても高額なイメージがありますが、実は部分的な住宅改修はそこまで高くありません。階段や玄関、浴室などとくに必要と思われる箇所だけ手すりを付ける工事をすることをおすすめします。

また、要支援・要介護の認定があると、手すりやスロープなどの住宅改修に補助金が出る場合があります。田中さんのご両親はまだ何も介護認定をお持ちではないとのことですが、今まで通りの生活が困難になったときは地域包括支援センターに相談するとよいでしょう。

地域包括支援センターには保健師や社会福祉士、主任ケアマネージャーがいて、各所と連携しながら高齢の方を支援するために必要な対策を一緒に考えてくれる場所です。「まだ介護は必要ないから」と躊躇せずに、一度相談してみることをおすすめします。

高齢夫婦の二人暮らしには見守りも必要!できる対策を考えよう

田中さんにはもう1つ気になっていることがあるそうです。それは、実家の近所にあまり人が住んでいないことです。

田中さん
「私が子どもの頃は、近所にも同じような家族がいっぱい住んでいたんですよ。でも、今は高齢者ばかりの集落になっていて。1番近所の家も、おばあちゃんがいたんですけど、今は施設に入ってしまって。だから、何かあったときも、畑の脇の坂を上らないと人を呼ぶことができないんです。今回は父が救急車を呼べたからよかったけど、もっとうまく見守る方法はないかなと、ずっと考えているんです」

田中さんのご両親はご夫婦で暮らしているので、どちらかに万が一のことがあったときも、助けを呼ぶことができるでしょう。しかし、ご夫婦のどちらかが外出していたりお二人とも対象を崩されたりしたときのことも考えておく必要があります。

たとえば、自治体や警備会社の見守りサービスなどを利用すると、何かあったときに家族に連絡をしてくれます。警備会社の見守りサービスでは、コントローラーの設置が必要ですが、「緊急」と書かれたボタンを押すだけで、万が一のときに警備員が駆けつけてくれるので安心です。

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