知人の訃報を受けたときに「葬儀は家族葬で執り行います」という文言を見かけたことがある人は多いのではないでしょうか?
家族葬で葬儀を執り行うという一文の裏には、一般の弔問客に対して参列を遠慮してほしいという意味が含まれています。
家族葬とは、身内だけで故人とお別れする葬送スタイルで、1990年代から日本で広まりました。
従来の日本のお葬式は、ご近所さんや会社関係者、親戚などといった参列者が多く集まるのが普通でした。従来のお葬式では、大規模な葬儀を取り仕切り、たくさんの参列者への挨拶まわりに忙しく、ご遺族は故人との最期のお別れをゆっくりできません。
また、大切な家族を亡くしたショックのなかで、多くの参列者に挨拶したり式を取り仕切ったりすることは、身体的にも精神的にも負担が大きいものでした。
そういったなかで、普及したのが家族葬です。
家族葬では、葬儀に参列するのはごく近しい家族や友人のみ。身内だけが集まるアットホームな雰囲気のなかで、故人に最期のお別れができます。
また、家族葬が増えた理由の1つとして、日本の高齢化が進んだこともあるでしょう。故人がかなりのご高齢だった場合には、故人のきょうだいや旧友もまた高齢だったり鬼籍に入っていたりすることがあります。
そうすると、社会的なつながりも希薄になっている可能性もあるでしょう。このため、現代の日本では身内だけで見送る家族葬が適しているのかもしれません。こういったことからも、家族葬を選択するご遺族は増えてきています。
家族葬は小規模な葬儀なので、一般葬に比べると費用を抑えられるというメリットもあります。最近では、葬儀社が家族葬のプランを設けていて、必要なものがすべてセットになったものが割安な料金で提供されています。
「うちは母が『自分の葬儀は身内だけの家族葬で』と希望していたので、その通りにしたんです。でも、いま思うと、一般葬で執り行ってもよかったのかもしれないと、ちょっと後悔しています」
このように、お母様の葬儀について振り返ったのは、3ヵ月前にお母様を亡くした朱美さん(仮名です)です。今回は朱美さんに家族葬についての詳しいお話を伺いました。
故人の希望で家族葬を選択し後悔した理由とは?
「私の母はガンと告知されて2年間闘病の末、3ヵ月前に亡くなりました。母は告知されたときに終活を始めたみたいで、治療の合間に銀行口座やクレジットカードの解約をしたり、エンディングノートを書いたりしていました。そのなかで、葬儀についての希望の欄に『最期は夫と子どもと孫たちと、私のきょうだいだけで。家族葬を希望』と書いていました」
お母様が闘病を始めたのは、ちょうど70歳になったときだそうです。お母様はずっと専業主婦だったので、仕事関係や社会的なつながりなどはあまりなかったとのこと。このため、朱美さんもお父様やお兄様も参列者が少ないだろうと考え、お母様の葬儀は家族葬で執り行うことを決めました。
「母の葬儀は本当に身内だけで20人くらいの家族葬にしたんです。葬儀社に最初に頼んだプランは基本料金45万円だったんですけど、結局その倍近くはかかりました」
「基本のプランだと映画の『おくりびと』で見たような湯灌や納棺式がなかったので、やっぱり最期はきれいにしてあげたいと思って、オプションで頼みました。あとは、お花も基本のままだとボリュームが少なかったので、母が好きだったカトレアを多めに入れてもらって」
「うちは菩提寺もあるので、家族葬だけどお坊さんにも来ていただきました。お布施は葬儀代と別なので、合計するとそれなりの金額でしたね。でも、家族で納得できる形で見送りたかったので、後悔はしていません」
朱美さんやご家族は小規模の葬儀でもしっかり見送りたいという気持ちが強く、想定よりも費用がかかったものの、後悔はしていないと言います。しかし、話を聞いていると、実は葬儀について後悔している点があるそうです。
「そもそもなんですが、身内だけの家族葬にしたことに後悔しているんです。母はずっと専業主婦だったし、特別親しい学生時代の友人などもそこまでいなかったみたいで。エンディングノートには、家族以外で訃報を伝えてほしい人は書かれていませんでした。でも、母が亡くなってから、『お線香をあげたい』という弔問客が毎週のようにやってくるんです」
朱美さんのお母様は65歳まで、近所の小学校で放課後指導員のボランティアをやっていたそうです。
「母がやっていたのは、放課後に学校に残って遊んだり宿題をしたりする子どもたちを監督するボランティアでした。母も子どもたちとの交流を楽しんでいて『イマドキの子どもって難しいのかと思っていたけど、やっぱりかわいいのよね』なんて、話していたことを覚えています。そのときに指導していた子たちが、母の訃報を知って弔問に来ているんです」
朱美さんのご実家のある地域では、新聞の地域欄に訃報が掲載されるのが普通なのだとか。このため、新聞を見て朱美さんのお母様の訃報を知った方が、個別に弔問にいらっしゃるのだそうです。
「母は『私はそんなに社交的ではないから』と謙遜していたんですけど、ボランティアで一緒だった人とか教え子とかが次々弔問に来るので、本当はすごく頼りにされていたんだと思いました。弔問客の方から私が知らなかった母の一面を教えてもらえて嬉しいんですけど、さすがに毎週来られると応対するのが大変で。一般葬にして訃報欄に葬儀の日程を掲載していたら、個別に対応しなくて済んだのかもしれないと思っています」
朱美さんは「今度の週末も弔問に来たいという人がいるんです」と、苦笑いしました。
家族葬を選ぶ前に知っておきたいトラブルの事例とは?
故人や家族の希望で家族葬を執り行ったあと、朱美さんのように後悔するケースも実は多く見聞きします。家族葬にしたことで起りがちなトラブルは3つあるので、事前に知っておくとよいでしょう。
ケース1:想定よりも葬儀関連の出費が大きい
家族葬を執り行ったご遺族からの声で、よく聞くのが「思ったよりも葬儀費用が高くなった」というものです。
葬儀社の家族葬プランは葬儀を執り行うための基本的なサービスが含まれています。しかし、故人やご遺族の希望を叶えるためには、別料金のオプションを追加する必要があるかもしれません。
また、基本のプランには火葬にかかる費用や僧侶へのお布施などは含まれていないこともあるので、事前に確認しておきましょう。
家族葬で出費が多く感じる理由の1つとして、参列者からの香典が集まらないことも考えられます。一般葬ではたくさんの参列者が香典を持参するため、香典を葬儀費用に充てられます。家族葬では葬儀代のほとんどをご遺族が負担することになるため、小規模の葬儀の割には金額が高く感じられるかもしれません。
ケース2:親族や知人の理解を得られない可能性がある
家族葬では参列者を限定するため、遠い親族や昔の知人などに葬儀の案内をできないことがあります。
また、従来の葬儀やしきたりを大切にする方からすると、家族葬は簡素に見えるかもしれません。このため、親族や知人から反対されたり理解を得られなかったりして、トラブルに発展することもあります。
ケース3:個別に弔問客の対応をしなければならないことも
家族葬では参列者を身内だけに限定するため、故人に最期のお別れをできない人が出てしまいます。
葬儀に参列できなかった関係者は、後から弔問に訪れることもあるでしょう。個別にいらっしゃる弔問客への対応が意外と大変という声はよく聞きます。一般葬は多くの参列者が集まる分大変ではありますが、弔問客への対応が一気に済むという点はメリットといえるでしょう。
家族葬で後悔しないために必要な準備は3つ
家族葬を後悔なく執り行うためには、事前の準備が大切です。次の3点を考慮して、家族葬を検討・準備しましょう。
- 葬儀を検討する時点で参列する人の範囲を決めておく
- 家族葬のメリットやデメリットを把握しておく
- 葬儀社やプランを比較する
ご家族が危篤状態になったら、縁起でもないと思われるかもしれませんが、早めに葬儀について考えることが大切です。
そのなかで、参列する人の範囲や人数を決めておくと、家族葬が適しているのかどうかがわかってきます。家族葬は参列者の平均人数が10~30人程度です。家族葬に人数制限はありませんが、参考にしながら葬儀に呼ぶ範囲を検討するとよいでしょう。
また、家族葬を検討するときはメリット・デメリットをしっかり理解しておく必要があります。費用のことや親族からの理解を得られるかどうかなど、さまざまな観点で検討しましょう。
一口に家族葬といっても、葬儀社によってプランに含まれているサービス内容は異なります。葬儀の契約をする前に、いくつかの葬儀社やプランを比較検討することをおすすめします。