交通事故の約2倍!?高齢者にとって危ないヒートショックとは?

体験談

寒い冬の時期、1日の終わりに湯船につかるとリラックスできますよね?なかには、夕食時に晩酌を楽しんだあと、就寝前にゆっくりと入浴をするのが習慣だという方もいるのではないでしょうか?

しかし、高齢者が気をつけたいのが、寒い季節のヒートショックです。

ヒートショックとは、急激な温度の変化によってもたらされる体調不良のこと。体調不良というと、そこまで深刻に感じないかもしれませんが、急激な血圧の変動によって、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすこともあります。最悪の場合、そのまま亡くなってしまうこともあるのです。

厚生労働省が毎年発表している人口動態統計によると、2021年に不慮の溺死や溺水が原因で命を落とした方は7,184人いました。一方、交通事故で亡くなった方は3,536人なので、不慮の溺死や溺水で亡くなった方のほうが、約2倍多いという結果になっています。(※1)

もちろん、海や川でのレジャー中の水難事故なども含まれているため、簡単に比較することはできませんが、家庭内の浴槽での事故は想像以上に多いのです。

ヒートショックは、毎年寒くなる11月~4月にかけてとくに増えます。このため、毎年11月26日は「いい風呂の日」として、消防庁や消費者庁が注意喚起を行っています。

お風呂から上がろうとしたときに、立ちくらみを経験したことのある方は、高齢者に限らず多いのではないでしょうか?

ちょっとした立ちくらみがまさかの事態につながることもあるので、要注意です。

今回は職場の同僚から旦那さんがヒートショックが原因で倒れてしまったと聞かされた、直子さんに詳しいお話を伺いました。

職場の同僚が語ったヒートショックの怖い話し

直子さんは、1年前から夫が地方に単身赴任になったため、現在一人暮らしをしています。

直子さん
「夫の転勤が決まり、一緒に転勤先についていくことも考えたんですけどね。でも、夫は2年で定年になって戻ってくると言っていたし、コロナ禍での引越しも億劫で、私は残ることに決めました」

直子さんが住み慣れた家に残ることに決めたのは、飼い猫とパートの存在が大きかったと言います。

直子さん
「猫はもう5年飼っていますが、とにかく癒される存在ですよ。夫の赴任先でペット可能な物件を探すのは大変だったし、あんずちゃんも住み慣れた家のほうがいいと思って。」
直子さん
「あとは、ずっと勤めているパートも気に入っているんですよ。お弁当を詰める仕事なんですけど、幸いなことに職場のメンバーに恵まれていて。ベタベタした付き合いはしないけど、休憩時間に他愛のない話をするのが、結構心の支えになっています」

直子さんは楽しそうに話をしてくれました。

直子さん
「それでですね。先月、そのパート先で結構仲良くしている方が、急に2週間近く休むことになって。シフトを代わったり、いろいろ大変だったんですよ。やっとその方が復帰してきたから『どうしたの?』と、聞いてみたんですけどね」

直子さんのいう職場の同僚は、昭子さんという方で、直子さんよりも少し年上の女性だそうです。昭子さんは、職場の休憩室で「いろいろご心配かけてごめんなさいね」と、言いながら、なぜ2週間も休むことになったのかを説明したそうです。

昭子さん
「実はね、先月旦那が倒れたのよ。その日は、いつも通りお風呂に入っていて、ご機嫌に鼻歌なんか歌っていたんだけどね」

昭子さんが声を潜めながら話し始めると、パート仲間4人は身を寄せるようにしながら、昭子さんの話に集中しました。

昭子さん
「ちょっといつもより長湯だわって思っていたんだけど、とくに気にしていなかったのよ。そしたら、浴室の扉をガチャガチャ開ける音が聞こえたから『じゃあ、次は私が入る番だわ』なんて、着替えを準備しようと思っていたの」

昭子さんは話を一旦止めて、パート仲間の顔を見回しました。

昭子さん
「その瞬間、バタンって何かがぶつかるような音が浴室から響いたの。大きな地震か何かみたいな感じで。そしたら、浴室と脱衣所の間に旦那が裸のまま倒れていたの!もうびっくりしたわよ」

昭子さんは慌てふためき、とりあえず夫の体をバスタオルで拭いたり下着を履かせようと試みたりしたそうです。しかし、ぐったりと動かなくなっている夫の姿を見て我に返り、119番に通報をしたとのこと。

直子さん
「えー!それは大変じゃない。それで、すぐに救急車は来たの?」

パートの同僚たちは全員口元を手で覆いながら、真剣に昭子さんの話を聞いていたそうです。

昭子さん
「どのくらいだったかしら?もう救急車を待っている間のことはほとんど覚えてなくて。でも、電話越しにいろいろと指示されたから、その通りに動いていた気がするわ」

救急搬送された昭子さんの夫は、幸いにも命に別状がなく、現在も入院しているとのこと。

昭子さん
「すぐに救急車を呼んだのがよかったみたい。旦那は幸い頭に軽い打撲だけ。でも、脚を骨折していたの。だから、まだ入院していて、今度やっとリハビリを始めるみたい。旦那が働けない間、私が仕事頑張らなきゃいけないから、これからはシフトいっぱい入るから!」

昭子さんは一通り話すと、少しリラックスしたのか、急に笑い出しました。同僚たちが驚いた表情をしていると、昭子さんは続けたそうです。

昭子さん
「もうね、旦那が裸で倒れているのを思い出すとおかしくってね。それを必死で着替えさせようとしていた自分もおかしくて。でもさ、命に別状がなかったから笑えるのよね…」
昭子さん
「救急隊の人にも病院の先生にも言われたの。『旦那さんは、とても運がよかったんですよ』って。結構多いらしいの。お風呂に入っている最中に亡くなる人って。うちの旦那はお風呂あがりに倒れたから大きな音がして、私が気付いたんだけど、湯船に浸かりながら意識を失って、そのまま溺れてしまう人も多いんだって。とくに一人暮らしだったりすると、倒れていても誰も気付かないじゃない?」

同僚たちはうんうんと頷きながら、昭子さんの話を聞いていました。直子さんも頷きながら話を聞いていましたが、急にご自分の夫のことが心配になったそうです。

直子さん
「うちの夫、単身赴任なのをいいことに、食生活が乱れているみたいで。もともと高血圧だから、昭子さんの旦那さんの話が他人事に思えなくて。一人暮らしだから、もしもお風呂で倒れたとしても、誰も気付かないですよね」

「冬場の入浴は危険」と、なんとなく聞いたことのある直子さんですが、実際にどのような要因でヒートショックが起きるのかについてはよくわからないということでした。そこで、ヒートショックが起きるメカニズムを一緒に確認することにしました。

ヒートショックはなぜ起きる?冬の入浴が高齢者にとって危険な理由

ヒートショックとは、寒暖差によって血圧が急激に変動し体調の変化を引き起こすことです。具体的には、次のようなメカニズムでヒートショックは起こります。

冬はリビングなどの居室に暖房をつけ、暖かい空間で過ごすことが多いでしょう。この時、血圧は安定している状態です。

ところが、入浴しようと暖かい部屋を出て、寒い脱衣所で洋服を脱ぎます。寒い場所で裸になると、脱衣所や浴室では血圧が急上昇します。この直後に湯船に浸かると、今度は体が温まって血圧は急降下するのです。

このように、普段は安定している血圧が、寒い脱衣所・浴室で急上昇、温かいお風呂で急降下することでヒートショックが起きます。血圧の急激な変動によって、脳や心臓に大きな負担がかかり、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血を引き起こすのです。

直子さん
「心筋梗塞や脳梗塞って怖いですね。でも、なぜ年を取るとヒートショックが起きるんでしょうか?体が弱っているからですか?」

直子さんから質問されて調べたところ、実はヒートショックで緊急搬送されたり亡くなったりしているのは高齢者だけではありませんでした。若い方にもヒートショックが起きる可能性があるので、注意が必要です。

しかし、浴室内でヒートショックを起こして亡くなった方の約9割は、65歳以上の高齢者です。

高齢の方は、若い方よりも温度に関する感覚に鈍感になる傾向にあります。若い頃は42℃設定のお風呂を熱いと感じていたのに、今ではもっと高い温度でも余裕で入ることができるという高齢の方も多いでしょう。このため、急激な温度の変化に体が付いていけていないのに、体調の変化に気付かないまま倒れてしまう高齢者が多いのです。

ヒートショックを防ぐための5つのポイントとは?

ヒートショックは冬場の温度差によって起こるので、予防するためには気温の変化を最小限にすればよいわけです。ヒートショックの予防策を5つご紹介します。

浴室・脱衣所を暖めておく

寒い浴室や脱衣所を事前に暖めておくと、血圧の急上昇を防ぐことができます。湯船のふたを開けておくだけでも、温かい湯気が浴室内に広がって、浴室全体の気温を上げられます。脱衣所には小さなヒーターを置くのがおすすめです。

湯船の設定温度は41℃以下、10分以内の入浴を心がける

冬に温かいお風呂にゆっくり浸かるのが好きだという方も多いのではないでしょうか?しかし、ヒートショックを防ぐためには、熱すぎるお風呂は避けたほうがよいでしょう。また、長湯も体が温まりすぎるため、やめたほうが無難です。

湯船の設定温度は41℃以下、10分以内の入浴にしましょう。

手や足からかけ湯をする

いきなり熱い湯船に入ると、体がびっくりしてしまいます。なるべく心臓から遠い手や足からかけ湯をして、体を熱いお湯に慣らしてから入浴しましょう。

入浴前後にしっかりと水分補給する

入浴すると、汗をたくさんかきます。汗をかくことで、気付かないうちに体内の水分は減ってしまうのです。体内の水分が少なくなると、血栓ができやすい状態になります。このため、入浴前後にしっかりと水分補給をしましょう。

食後すぐや飲酒後の入浴は避ける

食事した直後は、血圧が下がっている状態です。また、飲酒すると、アルコールの効果で一時的に血圧が下がります。食後すぐや飲酒後に入浴すると、血圧が下がりすぎて失神する恐れがあります。このため、食後すぐや飲酒後の入浴は避け、時間をおくようにしましょう。

このほかに、もしもヒートショックが起きてしまったときに早く見つけてもらえるように、入浴前に家族に声を掛けておくことも大切です。高齢者と一緒に暮らしている方は、高齢者が入浴しているときに気を配り、なかなかあがってこない場合には声を掛けたり様子を見たりしましょう。

直子さん
「お酒を飲んだ後の入浴はNGなんですね!夫は毎日晩酌したあとにお風呂に入るのが習慣なので、注意するように言っておきます。あと、脱衣所のヒーター、買って送ろうと思いました」

直子さんは、さっそく小さなファンヒーターを購入すると話してくれました。

もし、脱衣場やお風呂場がいつも寒いと感じている方は、ヒートショック対策を検討してみてください。

タイトルとURLをコピーしました