厚生労働省が2021年に発表した平均余命のデータによると、日本人の平均寿命は男性が81.47年、女性が87.57年でした。
かつては定年退職してご隠居生活を送っていた60代、70代の人も、現役で働いたり趣味を楽しんだりと人生をまだまだ謳歌しているのが現代の日本です。
2023年現在、多くの企業では65歳で定年退職を迎えるのが一般的です。つまり、退職後に約20年間自由な時間が残っていることになります。
そこで、考えたいのが「セカンドライフ」です。
セカンドライフとは、定年退職後の生活のこと。今まで仕事に育児に必死だった方こそ、セカンドライフでは自分のために時間とお金を使ってみてはいかがでしょうか?
今回はあと2年で定年退職を迎える山本さん(仮名)にお話を伺いました。山本さんは充実したセカンドライフを送っている先輩の影響で、田舎暮らしに憧れを持ち始めたそうです。しかし、家族の同意を得られなさそうだという悩みを打ち明けてくれました。
定年後はのんびり田舎で暮らしたい!山本さんの憧れと現実
「私はあと数年で定年になるんですけどね。ずっと仕事一筋で頑張ってきたから、田舎に庭付きの一軒家を買って、老後は家庭菜園をしながら毎日温泉に入る生活をしたいと思っているんです」
山本さんは嬉しそうに話してくれました。山本さんは昔から地方移住に興味を持っていましたが、具体的に考えるようになったのは大学時代の先輩の影響があるそうです。
「この間、大学時代のサークルのOB会があったんです。そこで、2つ上の先輩が楽しそうに田舎暮らしについて話していたので、自分もそんな生活をしてみたいと具体的に考えるようになりました」
山本さんの先輩、田尻さんは定年退職後に奥さんの実家があった熊本県の山間の町に移住したそうです。
「私は久しぶりに先輩の田尻さんに会ったんですけど、田尻さんの同期の先輩たちが『くまもん、くまもん』なんて呼ぶんですよ。意味がわからず田尻さんに聞いたら『いま熊本に住んでいるんだ』と言っていて」
山本さんは口元を緩ませながら、OB会での会話を再現してくれました。
「田尻さん、熊本から来たんですか?地元は東京でしたよね?」
山本さんが聞くと、田尻さんは豪快に笑いながら答えました。
「そうなんだよ。実はかみさんのばあちゃんの家が空き家になっちゃっててさ。誰も住む人がいないけど、結構立派な家でどうしようかと思っていたのよ。正月に帰省のついでに見に行ったら、俺がその家を気に入っちゃって。家を譲ってもらってちょっと改築して、今は悠々自適にその家でカフェをやってるよ」
「そうなんですか!カフェなんて、結構大変じゃないんですか?」
山本さんが言うと、田尻さんはまた笑いました。
「まあ、趣味でやっている店だから、全然お客さんが来なくてもいいの。庭も広いからお客さんが来ないときは、野菜育てたり燻製作ったりして。その合間に自分でコーヒー淹れて本読んだりとかさ。のんびり暮らしているよ」
「すごいですね!そういう生活、ものすごく憧れます!」
山本さんは田尻さんの連絡先を聞いたので、次の長期休みには奥さんと一緒に熊本へ遊びに行こうと思っているそうです。
しかし、山本さんは夢を叶えるのは大変そうだと言います。
「実はOB会から帰ってきて、妻に田尻さんの話をしたんですよ。そしたら、妻は『私は嫌だわ。住み慣れた場所を離れて田舎暮らしなんて。田舎の大きな家って、掃除が大変そうな気がするし。マンションのほうが住みやすいと思うけど』なんて言うんですよ。夫婦で一緒に自然の中で暮らすのに憧れていたんですけど、妻はどうやら違うみたいで」
山本さんはそれでも諦めるつもりはないと言います。
「今度妻を熊本に誘って、田尻夫妻に会わせようと思っています。実際に移住経験者の話を聞いたら、考えを改めてくれるかなと期待しています」
セカンドライフを充実させるにはパートナーや家族の理解も必要!
山本さんのように、セカンドライフに夢を思い描きながら残りの会社人生を乗り切ろうと考えている方は多いのかもしれません。今まで仕事や通勤に使っていた時間はまるまる自由時間になりますし、退職金があるので一時的には金銭的な余裕もあります。
しかし、セカンドライフを充実させるにはパートナーや家族の理解も必要です。
とくに一緒に生活する配偶者の希望と自分の希望が食い違うと、理想のセカンドライフを送ることができなくなるでしょう。具体的にセカンドライフを検討する前に、パートナーや家族と老後の生活について話し合ってみるとよいでしょう。
夫婦で求めるセカンドライフが異なる場合には、「卒婚」という選択を取る人も増えています。
卒婚とは、離婚はしないものの夫婦別々に生活を送ることを指す言葉です。たとえば、山本さんの場合では、山本さんが田舎で、妻は都会で暮らし、時々どちらかが行き来するというスタイルを取ることもできるでしょう。
ただし、その場合は生活拠点が2ヵ所になるため、金銭的な負担は大きくなります。また、夫婦のどちらかが入院や通院、介護などが必要な状態になると、理想通りのセカンドライフを送るのが難しくなるかもしれません。
このように、理想のセカンドライフを送るためには、健康な体やお金が必要になるケースもあります。価値観は家族といえどもさまざまですので、お金の使い方や将来の介護などを含めて、話し合う機会を設けましょう。
セカンドライフにはどんな選択肢がある?人気のセカンドライフをご紹介
今まで仕事が忙しく、セカンドライフなんて考えてこなかったという方もいるかもしれません。すでにセカンドライフを送っている方から人気の選択肢をご紹介します。
海外移住
「老後は海外で暮らしたい」と一度は考えたことのある方は多いのではないでしょうか?
現役で仕事をしていたときは、なかなか長期休暇を取れず、海外旅行をゆっくり楽しむことができなかったという方もいらっしゃるでしょう。時間に余裕のあるセカンドライフでは、のんびり暮らしながらの滞在が可能です。
物価の安さや気候のよさからシニア層に人気なのは、タイやマレーシアといった東南アジアです。日本からも比較的近く、何かあったときに帰国しやすいのもメリットといえるでしょう。また、アメリカやヨーロッパの文化や自然に憧れを持ち、移住を希望する方も多くいらっしゃいます。
移住する国によって物価が異なるため、必要な予算も変わってきます。国によって長期滞在向けのビザの取得には条件も異なるでしょう。また、治安や医療の受けやすさなども国によって大きく異なります。このため、海外移住を検討する場合には、住みたい国の情報を入手して、綿密な計画を練ることをおすすめします。
地方移住
都会でずっと働いてきた方のなかには、景色のよい地方でゆっくり暮らしたいと希望される人もいるでしょう。
地方移住のよいところは、景色や空気のよさだけではありません。同じ家賃を支払うなら、東京よりも地方都市のほうが広く居住環境のよい部屋を借りられるでしょう。また、食費なども地方のほうが安い場合が多く、金銭的に余裕のある暮らしが可能になるかもしれません。
地方移住を検討される人のなかで人気なのは、長野県・広島県・静岡県です。長野県と静岡県は、新幹線を使えば東京から2時間弱というアクセスのよさが魅力です。広島県は風光明媚な瀬戸内海や温暖な気候で人気が高まっています。
また、沖縄県も根強い人気があります。温暖な気候ときれいな海が魅力の沖縄県は、海外移住ほどハードルが高くなく、異国情緒を感じられる移住先です。シニア層だけでなく若い世代にも人気の移住先となっています。
地方移住を検討する際は、季節ごとに足を運んで、暮らしやすさを体感してみるのがおすすめです。
地方は自然を近くに感じられたり広い家に住めたりと、メリットが多く感じられますが、その分交通の便が悪かったり家の手入れが大変だったりという可能性があります。また、雪に慣れていない人は豪雪地帯での生活は難しいかもしれません。
移住先を決める際は、優先したいポイントや譲れないポイントなどを考え、比較検討をしましょう。可能であれば、先に現地に移住している方に話を聞いてみるのもよいでしょう。
趣味に生きる
セカンドライフでは趣味を思いきり楽しみたいという方も多いでしょう。
時間を気にせず釣り糸を垂らしたり、季節ごとにすてきな風景を写真におさめたりと、さまざまな趣味に没頭できる時間をもてます。多忙すぎて趣味を見つける時間がなかった人は、カルチャーセンターなどに通って、セカンドライフに楽しめそうな趣味を見つけるのもよいでしょう。
セカンドライフで趣味を充実させると、楽しい時間を過ごせるだけでなく、新しい人とのつながりができる可能性もあります。
仕事一筋だった人ほど、職場以外の人間関係をもちにくかったことでしょう。趣味を見つけ、新しいコミュニティができると、セカンドライフがより充実したものになるはずです。
就職・起業する
定年退職後のセカンドライフで、再就職したり起業したりと、仕事を続ける人も増えています。
2021年度の内閣府「高齢者白書」では、60歳以上で収入のある仕事をしている人の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答しています。
実際に高齢者と呼ばれる年齢になっても働いている人が多く、65~69歳で410万人、70歳以上で516万人の方が働き続けています。
老齢年金の受給開始年齢が引き上げられたり、年金の支給額が減少したりと、老後の資金に不安を感じることが多く、仕事を続けようと考える方もいるでしょう。
しかし、金銭的な要因だけでなく、生きがいとして働き続けることを選択する方も多いようです。セカンドライフでは定年退職まで従事していた仕事で得たキャリアを生かしながら、再就職したり起業したりする人が多くなっています。
定年退職後のセカンドライフは長いので、年齢だけを理由に仕事を辞めてしまうのはもったいないですね。ずっとやってみたかった職業や理想的な働き方など、自分の考えを棚卸して、セカンドライフの就労を検討してみるのもよいでしょう。
セカンドライフが始まる前にエンディングノートを作成してみよう!
定年退職は長年働き続けた人にとってかなり大きな人生の節目です。定年退職後のセカンドライフをより充実したものにするために、これまでの人生を振り返って、今後の展望を確認することをおすすめします。
セカンドライフにどんな生活を送りたいのかを考えるうえで、役立つのがエンディングノートです。あなた自身のことや家族のこと、今までの仕事や人生全体を振り返る機会をもつことで、セカンドライフでどのような生き方を望むのかが見えてくることがあります。
また、エンディングノートを作成するために、自分の財産を把握していくことになります。セカンドライフの充実には、ある程度の資金が必要です。ずっと使っていなかった預貯金口座やカード類、有料サービスなどを見直したり解約したりすることで、思わぬところからお金が出てきたり節約できたりするかもしれません。
セカンドライフを迎える前に、エンディングノートを使って、自分の人生や財産の棚卸をしてみてはいかがでしょうか?